戦争体験を伝える◆名古屋ビジュアルアーツアカデミー写真学科「卒業制作展」をみて
運営委員  林 和子

                                           



 大阪の化学分析場跡、長崎の平和公園、立山防空壕、東京都旧日立航空機立川工場変電所、岐阜県の玉の火薬庫、そして名古屋市千種公園にある爆弾が貫いたコンクリート壁の穴から見える風景・・・。それらの写真の下に並ぶ戦争体験者、体験を語り継ぐ人の写真とお話。
 「止まったときの中で」と題するこの作品は、名古屋ビジュアルアーツアカデミー写真学科卒業制作展(2026年2月25日~3月1日 愛知県美術館で開催)に展示されていた。
 制作者は上田華音さん。彼女は昨年の夏、ピースあいちの「夏の戦争体験を聴くシリーズ」の初日、「写真の専門学校に通っています。戦争をテーマに卒業制作のために作品を作りたい。体験者のお話を取材したい」と、来館された。期間中何回か「体験を聴くシリーズ」に来られ、熱心にお話に耳を傾け、写真を撮っていた。

 「昨年の春、広島を訪れたことをきっかけに戦争の跡地をめぐり写真を撮影しました。 当時の姿のまま残っている場所や今は人々の生活の一部になっている場所、日常の風景として通り過ぎてしまうというところも記憶の痕が刻まれています。 写真を通じて、止まったときの中で生きる静かな息遣いを感じてもらえたらと思います。」 作品紹介のメッセージにはそう書かれていた。

 ピースあいち語り手の井戸早苗さんは名古屋空襲体験者。空襲警報が鳴ると防火要員の母と離れ、当時7歳、たった一人で防空壕に向かう不安や寂しさを語っている。語り継ぎ手の中上寧さんは、母親、叔父など家族・親族の長崎原爆体験を語っている。澄谷三八子さんは当時7歳。焼夷弾と炎の中、一晩中家族と逃げまどい、太陽が昇り帰った我が家は焼失していたと語っている。
 この作品を見て、消えていく風景、消し去られる風景、そして風化していく一人ひとりの体験や想いを切り取り、繋いでいく、戦争体験を次の世代に伝える方法はいくつもいくつもある、“私の伝え方”があるんだと改めて思った。

 作品を前に上田さんは、
 「戦争体験者のお話を聴き、文章をまとめさせていただいた時、写真を撮ることとどこか似ていると感じました。どちらも過去にあった出来事を受け取り、自分の中で考え、次へと伝えていく行為だと思ったからです。戦後80年が過ぎ、実際に体験された方は少なくなっています。建物も老朽化し、当時の痕跡は少しずつ薄れていきます。それでも、その場所には案内を続けるボランティアの方や、壊されそうになった建物を残そうとした人たちがいました。
 私は、記憶は建物そのものだけでなく、「伝えようとする人」がいることで残り続けているのだと感じました。今回の展示が、過去に耳を傾けるきっかけになれば嬉しいです。」と語ってくれた。

 躍動する若者の姿をとらえた写真、笑顔がはじける写真、色彩豊かな写真・・・のなかにあって、「止まったままではない」静かな思いが伝わってくるような空間だった。