戦後80年の今、語り継ぎを振り返りながら思うこと
語り継ぎボランティア 澁谷 美子
私にとって青空の下での散歩中の深呼吸は、気持ち良く自然の中で生かされていることを実感する至福の瞬間です。80年前、戦争でこの空から爆弾が落ちてきたこと、また現在はその危機感が増していること、世界では起こり続けていることを思うと心の声が虚しく響きます。
どれだけ多くの利益を生みだしても私達は自然なくして生きられないのに、自然破壊するだけ、尊い生命を奪うだけ、憎しみや悲しみ、戦争の連鎖をうみ出すだけの兵器にお金と時間をかけ進化させ、使用する事に何の意味があるのだろうと┅

私が戦争語り継ぎ手ボランティアに応募し研修を受けたのは2020年(戦後75年)の秋でした。コロナ禍での研修開催は準備からいろいろ大変だったと思いますが、スタッフ皆さまのご尽力により受ける事ができ、その中で上野三郎さん(2022年1月 ご逝去)の戦争体験を語り継ぐことを決めました。語り継いでいる内容はフィリピンへ行く途中、米軍の魚雷攻撃で乗船した船が沈没していく中で助かりその後、フィリピンのミンダナオ島での戦場体験、戦後の思いです。
語り継ぎをする度に、上野さんが言葉にされた以上の、言葉にできない計り知れない思いを感じます。目の前で多くの人達が亡くなっていき、自分の意思とは無関係に不条理なことを強いられた戦場体験を語ることを決めた上野さんの思いはどれ程のものだったのか。戦後生まれの私には到底理解することはできません。でも、そこに耳を傾け心を寄せる姿勢は大切にしています。
初めて語り継ぎをした日は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2日後でした。衝撃を受けながら、この時だからこそ上野さんの体験、思いをしっかり伝えたいと決意しながら緊張しながら、語り継ぎをしたことを覚えています。その後もイスラエルによるガザへの徹底攻撃が始まるなど世界に緊張が走り続けています。上野さんの戦争体験が過去の話と受けとめられないように語り継ぐ言葉は毎回ギリギリまで考え悩みます。
上野さんの戦争体験、戦後に生き残った自分を責め苦しまれた事は過去の話ではなく、世界の戦場で一般の人たちが兵士として戦っている現在にも繋がっている話であり、戦争から生まれる悲しみ、苦しみに時代も国境もないと思います。
終戦から80年という長い年月が流れました。AI技術は進化していき、効率化便利化されて改善されることで広がる世界もあると思います。反面、そこが過度になれば人から寛容さ、感性などが奪われ自分達の求める答えを急ぎ武力行使するスピードが今以上に加速される危機感も覚えます。
これからも上野さんをはじめ語り手の方達の平和への祈りを胸に、戦争や平和について知る考える行動することのきっかけになってもらえるよう語り継いでいきたいと思います。戦後90年、戦後100年と「戦後」と言い続けられるように願いを込めて。
