◆所蔵品から◆資料ナンバー10017 「裁縫の扣(ひかえ)集」の話
資料班



「裁縫の扣集」

「裁縫の扣集」表紙・裏表紙

 秋が深まると、寄贈品展の準備が忙しくなってきます。展示レイアウトの案を考えているときにこの資料の写真が目にとまりました。

 「裁縫の扣集」。「手へん」に「口」って何だろう。「金へん」に「口」だと、お裁縫に関係ある「ボタン」(釦)なんだけど。
 そう思って検索してみると、「扣」は「控」と同じように使われる字で、ひかえ(る)と読むらしい。「手扣」(てびかえ)という言葉があって、記録集というか、後のための覚え書きのことだそうです。
 というわけで今回取り上げる資料は、「裁縫の扣(ひかえ)集」。裁縫(和裁)の覚え書きです。

 余談ですが、検索中に「扣肉」っていう中国料理が出てきました。画像検索をしたらお醤油色の豚のバラ肉がずらり。「扣」の文字にはほかにもいろいろ意味があるみたいです。

「裁縫の扣集」

「裁縫の扣集」

 表紙を開いてみると、中の文字は活字ではなく手書き文字でした。青色で印刷されています。

「裁縫の扣集」

「裁縫の扣集」

 背表紙にはペンで、「昭和十六年三月廿日 卒業に際して」と書かれています。
 背表紙をめくった内側に作成者のメッセージがあります。ちょっと長いけれど引用します。
 「此の扣集の中にあるすべての事は皆今迄に会得したることばかりなるが将来愈々事多き生活に入るに於ては忘却することも無いとは言えないからその時、各自の記憶を蘇えらせるに便利であり、最も有効な方法なりと信じ、皆の請いを入れこれを作成す。」
 「将来愈々(いよいよ)事多き生活に入るに於ては」というところが、迫力というか切実さがあります。
 大変なご時世で、ちゃんとマスターしたお裁縫の事を忘れてしまうかもしれないけど、これを見れば思い出せる。みんなのリクエストで作りました。というような事でしょうか。

「裁縫の扣集」

「裁縫の扣集」

 和裁や和服のことに詳しくないので、読み進むのは大変なのですが、するっと読めてしまった部分があったのでそこをご紹介します。
 「単(ひとえ)着物裁断に就(つ)いて」というタイトルです。
 「柄(がら)合わせ」の話です。縫い合わせたときに布の柄がつながって見えるようにするとか、布に大きい模様が入っている時にその模様をどこに持ってくるときれいに見えるか、そのためには布をどこでカットするか、というような事です。
 柄の合わせ方に「不注意」だと、「広い肩幅を益々広く見せたりそれ程でもないお尻を大きく見せたりする」けれども、柄を上手に合わせれば、「栄養満点の方も、さほど肥った感じを他人に与えない」と書かれています。
 昭和16年、1941年って、もう80年も前ですが(今は2022年)、若い女性というか少女というか、彼らは「太く見えないように」ということを気にしていたのか。親近感がわくような、現代の私たち進歩ないかも、とも言えるような。
 続きの文章では、「横段柄」つまり横縞の柄について、大柄や色調の強い目立つものは「ひどく巾広に見え」ると書かれています、左右でずらして「入れ違い」にするといいそうです。太いボーダー(横縞)は横に太く見えるっていうの、今でも言われますよね。

「裁縫の扣集」

「裁縫の扣集」

 仕立て方の図解のページも少しご紹介します。「単(ひとえ)羽織(はおり)に就いて」です。右側のページに載っているのは、布からどのようにパーツを切り出すか、そのために布をどのように折りたたむと良いか、の図です。
 左は「乳作りの図」です。「乳」(ち)は、羽織の前で結ぶ紐を通すループの事です。
 小さいパーツなのですが、男女で付け方が違うらしい。男女で結び目の作り方が違うからでしょうか。

寄贈品展のお知らせ
ピースあいち第10回寄贈品展 つなげていこう平和への願い
会期:2022年12月6日(火)~2023年2月25日(土)
休館:日曜日、月曜日、年末年始2022年12月24日(土)~2023年1月4日(水)



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