新 年 雑 感 館長 野間 美喜子

みなさま
明けましておめでとうございます。
戦後70年の節目の年がスタートしました。あの戦が終わって70年経ったということは、戦争を知る世代にとってはやはり感慨深いものがあります。考えてみれば、明治維新(1868年)からあの敗戦(1945年)までが77年だったのですから、戦後、それとほぼ同じ長さの歳月が流れたことに何か痛切な思いがあります。
人生における記憶は5~6歳ころから鮮明になると言われますが、1945年に6歳だった私の人生の記憶も「あのとき」がスタートで、その後の70年間、良いことも悪いことも全部みてきたことになります。
「平和だった70年」といえば確かにそのとおりで、70年間、日本は戦争をしなかったし、戦争に巻き込まれたこともありませんでした。しかし、何ごともなく平和が不動のものとしてそこに存在したわけではなく、時代は常に揺れ動き、そこには国民の血みどろの闘いや多くの犠牲があった70年だったと思います。この国から多くの「佳きもの」が失われた70年でもありました。
記憶のスタート地点の景色は不思議なくらい鮮明です。
ワラ半紙を折ったような教科書、憲法が発布された日の旗行列、お弁当を持って来なかった友だち、焼け野原の東京の街、駅で黒い群れをなしていた戦災孤児、アコーデオンを弾いていた傷痍軍人、ラジオから流れてくる「鐘の鳴る丘」、「尋ね人の時間」・・・・・。
疎開先の三重県亀山は、国鉄の関西線と参宮線の分岐するところで、駅には大きな機関区があり、昭和20年代、いつも赤い旗が林立し、インターや労働歌が終日鳴り響いていました。働く者が搾取する者に対して誇り高く闘っているというイメージでした。その後も、メーデー事件、大須事件、三井三池の労働争議、砂川反基地闘争、安保条約改定反対闘争、四大公害訴訟・・・70年の前半期は押し寄せる反動化、経済化の波に対する国民の高揚した闘いがありました。
その後、日本は高度経済成長を遂げ、70年の後半期、豊かになった国民は静かになり、おとなしくなりました。戦時下の欠乏が身に沁みていた国民は、単純に「豊かなことはいいもんだ」と思っていたのかもしれません。
しかしこの時期、権力は着々と国民の抵抗勢力を弱体化させていきました。
国鉄の民営化、日教組への弾圧、総評の解体、マスコミの懐柔、学術会議と日弁連の変質化、・・・・権力はまことに巧みだったと思います。
人々の暮らしも大きく変わっていきました。都市への集中、地方の過疎化、自然の荒廃・・・、第1次産業は衰退し、個人商店は壊滅し、地域社会は崩壊しました。非正規雇用という新たな労働の仕組みが出現し、経済格差は拡大し、ワーキングプアというかつてなかった言葉が生まれました。I・T革命とやらに足をすくわれた子どもたちは、今や「スマホの奴隷」になっています。テレビは、歌謡曲、野球、サッカー、そしてお笑い、バラエティと、面白おかしい番組ばかり放出し、何も考えない国民を大量生産してきました。そして権力は仕上げに小選挙区制度を導入しました。
多くの国民が「こりゃ、違うぞ」「これは何か変だ」とようやく気づき始めたのがこの数年でしょうか? 全国に9条の会が生まれ、震災を機に脱原発も国民の多数になりました。沖縄の辺野古では戦いが続いています。しかし他方、権力はいよいよ本音を露わにしてきています。教育基本法を変え、武器輸出を解禁し、特定秘密保護法をつくり、集団的自衛権行使の閣議決定をし、いよいよ憲法という本丸に迫ろうとしています。国民は少しずつ覚醒してきていると思いますが、まだまだ押されています。昨年末の総選挙でも安倍自民党に多数の議席を与えてしまいました。
「ファシズムへの道は物言わぬ善意の市民が踏み固める」といわれます。あの投票率の低さは、まさに物言わぬ市民がファシズムへの道を踏み固めている姿に見えます。しかし、物言わぬ市民は、決して「善意」ではありません。知ろうとすれば情報があふれている時代にあって、不知や無関心は「無責任」であり、「保身」というエゴであり、「悪意」とさえいってもいいでしょう。不知や無関心自体が、政治的・経済的につくられている現実があることは否定できませんが、だからと言って、それらの人たちによってファシズムへの道が踏み固められていくのを座視するわけにはいきません。その現実を放置すれば破滅への道をたどるばかりです。では、どうすれば、黙する人たちの心に呼びかけ、言葉を届け、ともに希望の道を歩めるのか、答えはなかなか見つかりませんが、これが戦後70年を超える「時代の課題」であることは明確です。
私たち非力な市民は、権力と直に対決することは困難ですが、ファシズムへの道を阻止する市民の輪を広げていくことはできます。物を考える仲間、物を言う仲間を少しでも増やしていく地道な活動はできます。むしろ私たちの本領でもあります。市民がファシズムを阻止する道はこれしかなく、これが最後には勝つ道だと信じています。「ピースあいち」は今年も多彩な展示やイベントを展開し、人々の心に呼びかけ、言葉を届け、ともに考え、ともに希望の道を歩む決意です。どうか、今年もよろしくお願いいたします。