10月のボランティア勉強会―報告と感想 運営委員 稲田 浩治

師弟講演会
10月5日のボランティア勉強会は、午前中が名古屋市立大学平田雅己先生の講演「兵士の視点から戦争を考える」と同大学4年生鈴木桃子さんの関連トーク、午後からはガイド研修会という内容で行われた。
先生のお話を私流に要約すれば、-安倍政権は集団的自衛権行使容認の閣議決定をしたが、これによって自衛隊員を取り巻く状況は既に変わりつつある。それは、米兵のこれまでの過酷な戦場経験(殺人)と退役後経験(PTSD)の中に透視することができる。そこで、自衛隊を日本の安全保障のための「犠牲のシステム」として考えた場合、皆さんはどういう選択をされるのか、それが聞きたいーということになろうか。
さて、そこで私の抱いた感想を三点に絞って書いてみたい。
(1)演題の「兵士の視点から」ということについて
平田先生は、そのはじめに「日本国民を守るという大義があるならば、集団的自衛権の行使はかまわない。万が一、戦争になっても、行くのは自衛隊だろうから」という大学生の発言(2014年7月2日付朝日新聞)などを取り上げ、「いま日本人は兵士の犠牲とどう向き合うべきか」と問題提起されたが、およそ「兵士の視点から」という発想は非常に新鮮であり、また有効なアプローチだと思ったことは、今も記憶に新しい。なぜなら、戦争を考える場合、先ずは国家とか法とか大義とかを論じ自分には関係ないものにしがちであるが、結局のところ一人ひとりの兵士、ひいては一般人(自分)が犠牲になるかもしれないという自覚を呼び起こすのによい方法だと思われたからである。
(2)先生が紹介された「米兵が経験する戦場の現実」や「除隊後の現実」について
それは理不尽の見本のようなものであった。新兵の過酷な訓練は、つまりは人間性を剥ぎ取って人殺しが出来る兵士にすることであった。また、戦場では無意味に民間人を虐殺させられることもあったというのである。そして、幸い戦場から帰還しても人間味を残している兵士は罪の意識におののき、気がふれたり自殺を図ったりするという現実。
「9・11事件から2011年の10年間にアフガン・イラク戦争従軍兵士2293人が自殺した。退役軍人省による試算によれば、現在一日平均22人の退役軍人が自殺している。(年間約8000人ペース)」(レジュメ)そうである。すさまじい現実である。
しかも、それが自衛隊につながる話であることにぞっとする。実際、今までにアフガン・イラクの両戦争に派遣された自衛隊員のうち、40人の自殺者が出ているというのである。直接戦闘に参加しているわけはないのに、である。
(3)「犠牲のシステム」としての自衛隊について
高橋哲哉氏は、「(国策上、原発や軍事基地周辺の少数の)犠牲は必要だという人は、自らを犠牲として差し出す覚悟がどこまであるのか」(レジュメ)と問い、「二つの選択肢①犠牲が必要という場合、日本国憲法の平等原則(14条)に照らして、全国民で犠牲を平等に負担するのが筋。②犠牲を自ら引き受ける覚悟がなければ、国策そのものを見直すしかない」を示しておられるようであるが、平田先生はこれを自衛隊に当てはめ、
①「犠牲のシステム」としての現行志願兵制を維持するか
②犠牲を国民が平等に分かちあう徴兵制を導入するか
③自衛隊制度そのものを見直す(非武装その他)か
の中の、いずれをあなたは選択するのかと参加者に問われた。
今や誰もが「犠牲のシステム」としての自衛隊を自分の問題として考えなければならない事態に立ち至っていることを痛感させる講演であった。
鈴木桃子さんは、平田先生の講演との関連でいろいろなことを、語らずにはいられないとでもいうように、元気いっぱい情熱的に語られた。
その最初は、生まれがかつて海軍工廠のあった豊川で、子どもの頃から両親や祖父母らの戦争体験よく聞いたという話であったように思う。それが長じて「戦争と平和」に関心を抱くきっかけになったとも言われた。
次に、米国留学中に憲法9条を話題にして友人たちから支持された経験を持ったことや帰国を前にしてやむにやまれぬ気持ちがあったのであろう、米国で「第9条の会」を創設されたチャールズ・オーバービーさんを自宅に訪ねられた、そのときの話をされた。
オーバービーさんは、自分が朝鮮戦争ではB29のパイロットとして沖縄から出撃して北朝鮮を爆撃したこと、それがどういう意味を持つかに悩んだこと、さらにこれからどう生きたらいいのかに迷ったこと、大学教員になって日本国憲法に触れたこと、それが暴力を使わず法の支配で平和を実現しようとしていることに感動したこと、湾岸戦争に怒り、9条をアメリカに採用させようとしたこと、などを熱っぽく語られたそうである。
そして最後、鈴木さんは今日までの体験や思索をまとめるようにして、暴力に頼らない平和づくり、民主主義には「自分自身が考える」姿勢が大事だということを述べ、強調されたように思う。しかし、同時に最初から9条に出会ってしまった故に想像力が広がらないという私たちの弱点に注目し、特に若い人にどうやってアピールするかを真剣に考えておられる姿が印象的であった。

午後はガイド研修会。先ずは、コーディネーターの坂井栄子さんから「ガイド活動の指針」(資料)についての説明があった。その後、待望の展示ガイドの実演が行われた。
2Fの展示については(小中学生向け)佐藤和夫さん(大人向け)桑原勝美さん、1Fの展示については(小中学生向け)吉岡由紀夫さん(大人向け)野田隆稔さんがガイドをして見せてくださった。付いて回った者、およそ20人。見学者は大いに刺激を受け、勉強になったことであろう。画期的な企画であった。
これを機に、ガイドをやってみたいという人が次々に現れることを期待したい。