「平和」という名の一本道◆特別展・みんなで学ぼう日本の憲法     運営委員  斎藤 孝



 このところ、「平和憲法」と呼ばれる日本国憲法が危機的な状況にあります。「戦争をしない」と決めたわが国を「戦争ができる」国にしようとする動きが進んでいるからです。それも、現憲法を国民投票に付して国民の総意で決めるのではなく、内閣の憲法解釈(読み取り方)によって、集団的自衛権行使の道を開こうとするからです。

チラシ

 現憲法が世界に誇る憲法だということを私たちは概念的には承知していますが、個々の条文については必ずしも理解してはいないようです。そこで、憲法に関する本を展示し、親しく触れていただこうとして、このたびの特別展を企画しました。
 「ピースあいち」のボランティアや平和運動の協力者の方々に、そうした本の提供を呼びかけたところ、およそ300点(冊)の図書が寄せられました。そして、展示構想をまとめるため、22人からなるプロジェクトチームが作られました。その中には4人の大学生も含まれています。展示の項目は次の4つです。

1.教科書の中の日本国憲法
 3階の特別展の展示室に入ると、小学校の教科書が貴方を迎えます。現憲法の三大原則を示した6年生の「社会」の教科書です。すなわち、「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の三つです。この特別展のタイトルは「みんなで学ぼう日本の憲法」ですが、わが国では、もう小学6年生が平和憲法を学んでいるのです。

 この他、中学の『あたらしい社会・歴史』の教科書でも現憲法の制定過程や三大原則を記述し、さらに民法、地方自治法、教育基本法の制定にも触れています。高校の教科書では現憲法制定の頁を示し、「戦力を保持せず、交戦権も認めないと定めたことは、世界にも他に例がない」と絶賛しています。
 加えて、赤塚不二夫や秋竜山といった漫画家のマンガも添えて、興味深く読み取ることができます。

2.大日本帝国憲法と日本国憲法
 わが国が220年余にわたる鎖国を解いて、近代国家になろうとするときに制定されたのが「大日本帝国憲法」(明治憲法)です。その制定過程を簡潔に示しています。その形は立憲主義(時の政権の権力を規制するもの)を取っていますが、その内実は天皇が統治権の総攬者(そうらんしゃ)であり、内閣の権限が及ばない陸海軍の統帥権(とうすいけん)も持つという「絶対君主制」に近いものでした。そうした規定が昭和の時代になって軍部の暴走につながり、戦争を拡大して悲惨な敗戦になったという次第です。

 一方、「日本国憲法」の制定過程がわかりやすく記述してあります。現憲法は日本を占領した連合国軍総司令部による「押しつけ憲法」だと言われることがありますが、必ずしもそうではなく、民間人による「憲法研究会」の草案も取り入れられています。
 その草案で重要な役割を果たしたのが、植木枝盛の基本的人権思想を受け継いだ憲法学者・鈴木安蔵です。彼が残した貴重な図書も展示しています。あわせて、明治憲法と現憲法とどう異なるか、9項目にわたっての比較表が添えられています。

3.自民党改憲草案とは?
 自民党が『日本国憲法改正草案』を公表したのが2012年4月27日のこと。あわせて、同年10月には『日本国憲法改正草案・Q&A』を発刊しています。この草案は現憲法を総ざらい、多岐にわたって改正しています。そのうち、主として新設の条文を展示し、自民党の言い分を添えています。そこに「ピースあいち」としての疑念を示して、その評価を来館者の方々に委ねるという形にしました。

 一例を挙げれば、国民の責務を示す第十二条のうち「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」という条項を「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と変えています。ここでイラスト画の少年が、「公共の福祉が公益及び公の秩序に変更されている!」と問いかけています。私たちは批判的に受け止めることが必要と考えます。何故ならば、この条文は立憲主義に逆行しているからです。
  なし崩しに改憲を進めることは、憲法の原点である立憲主義を放棄することにつながります。この事態を一人ひとりが考えたいと訴えています。

4.世界に広がる平和憲法の輪
 第二次世界大戦の反省として、1945年10月に設立された「国際連合」の前文では、「国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は、武力を用いないことを原則」とすることを高らかに宣言しています。

 中央アメリカのコスタリカは憲法で軍隊を持たないと決めていますが、憲法での定めがなくとも軍隊を持たない国がコスタリカを含めて27カ国もあります。そのなかで「軍隊も戦力も持たない」と憲法で定めたのは日本だけです。
 このため、東アジア諸国では日本との武力による紛争はなく、平和の日々が続いてきました。ところが、昨今、島の領有権を巡って韓国や中国との関係があやしくなり、緊張が高まっています。
 今や経済中心主義から脱却する政治哲学が求められていると、このコーナーでは強調しています。

 この特別展では四つの視点から日本国憲法の昨今の実像を描いています。その四本の道は合流し、「平和」という名の一本道にまとまります。いま、目前には二叉路があり、一方の道は戦争への道です。私たちは道を誤ることなく、平和の一本道を歩き続けたいものです。