あの夏の空に届けー南山国際中学・高校演劇部
保護者有志による朗読劇に出演して          村田 純子



  よちよちとよろめき歩む幼な子がひとり此の世に生きて残れり  正田篠枝

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 これは、今回読ませていただいた『昭和万葉集』の中の一つです。このような光景は当時日本のあちこちにあり、身近な私の祖父母もおそらく目にしたことでしょう。そして今も世界のどこかで現実に起こっていることですが、私など平和な日本に暮らしている限り、つい忘れがちになります。

 私は広島市出身です。小学生の頃、毎年夏の平和学習が苦手でした。被爆体験談も映画『はだしのゲン』もその頃の私にはショックが大きく、戦争について考えるということは 「悲しくて怖くてつらいもの」になりました。でも大人になり、母になり、アメリカでの生活も経験し、「戦争について考えること」に背を向け続けることには問題があるとも考えていました。私たちの享受している穏やかな生活も、実は脆いものなのかもしれない。そんななか、息子の学校の朗読劇を知り、戦争について考える第一歩になればと参加を決めました。

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 朗読劇では広島の原爆、沖縄戦、名古屋空襲などについての短歌、詩、手記などを読みます。私は今回で3回目の参加ですが、最初は声を出して読むのも困難な重たい題材でした。言葉の一つひとつから、当時の状況、作者の心境を想像するのですが、いつも限界を感じていました。というか、限界を設定して想像することから逃げようとしている自分がいるのです。馬場先生から『広島第二県女二年西組―原爆で死んだ級友たち』という本をお借りしましたが、つらくて2章まで読むのが精一杯でした。そんな私が、読むことのみで聞き手に何かを伝得るなんてことができるのだろうか。まずはそんな自分を知るところから始まりました。

 昨年までは、とにかく自分のために読みました。「声に出して読むことは簡単なようでけっこう難しい」と、今も実感しています。今回は、「私はこんな風に感じて読みましたが、いかがでしょうか」くらいには聞き手を意識することができました。挫けず読み続けることができたのは、指導して下さる馬場先生、一緒に読み合わせる同世代の仲間、清々しい演劇部の中高生、そして暑いなか、足を運んで耳を傾けて下さる方々のいらっしゃるおかげです。私はひとまず引退ですが、3年間のこの経験をこれからも大事にしたいと思います。

 南山国際中学・高校の夏の朗読劇を、今後とも応援、よろしくお願い致します。