夏の企画展「学び舎から戦場へ」ができるまで
ボランティア  近藤 世津子

                                           
 

 初めてそれを見たのはいつのことだったか。制服姿の学生が雨の中を行進している。観客席には多くの女子学生。1943年10月21日の「出陣学徒壮行会」のモノクロ映像はそれ以後も記憶の片隅にずっと張り付いていた。
 きっかけは、2023年秋の東京外国語大学祭で企画のひとつの「戦争と外大生」を見たことだった。同大から学徒出陣した芥川多加志(芥川龍之介次男)や、映画「ラーゲリより愛を込めて」のモデルとなった山本旗男が取り上げられていた。興味を惹かれ、「こんな展示ができたら」と漠然と思ったのだが、それがピースあいちの「戦後80年プロジェクト」として実現することになった。

 

 私の思い付きに8名のボランティア仲間が賛同してくれて、企画検討が昨年5月にスタートした。当初は「学徒出陣」をテーマにしたいと考えていたが、議論するうちに「愛知一中総決起事件も地元のことだし取り上げたいね」「特攻にも学徒がたくさんいた」など、範囲が広がっていった。そこで、「学校現場が戦争に巻き込まれていくプロセス」を軸に据えて、テーマを「学び舎から戦場へ」と設定することに。
 あれやこれやと議論するうちは、ただ楽しかっただけだが、実際にパネル化するとなるとそれほど簡単なことではない。当初予定していた県内大学への調査も、関係文書が残っていないなどの事情から断念することになったし、見る人に強く訴えることができるような「モノ」「ヒト」にもなかなか出会うことができなかった。

展覧会場の様子1

小冊子『学徒出陣』昭和18年発行(ピースあいち所蔵)

 それでもメンバーの粘り強い頑張りと、幸運な出会いもあり、秋頃には少しずつではあるが展示内容の形が見えてくるようになってきた。メンバーそれぞれが汗をかいて現場へ出向き、話を聞いたり、資料を発見したり、中身も次第に充実してきた。愛知の特攻隊「草薙隊」や上海から学徒出陣した「東亜同文書院大学」など、私が初めて知ることも多く、たくさんの学びを得ることができた。
 5月には何とか全てのパネルの内容を固めることができ、現在は準備も最終段階に入っている。展示は「愛知一中予科練総決起事件」「学徒出陣」「特攻」と大きな3つのテーマから学校現場が戦争に巻き込まれていく過程を考えるものとした。見る方にできるだけ身近に感じてもらえるよう、写真・手記なども可能な限り展示する。

 

 戦争で尊い命を奪われたのは学徒たちだけではない。しかし、日本の未来を担うはずだった学徒たちが戦場へ向かうことになったのは何故なのか。「新しい戦前」という言葉も聞かれるようになった今日、この展示を見て改めて考えていただければと思う。現代の学徒たちにも、そうではない全ての方々にも。