「あとかたの街」を巡って
ボランティア  黒田 千尋

                                           
 


展覧会場の様子1

 7月の終わり、夏本番の強い日差しが照り付ける中、東海テレビの情報番組「スイッチ!」のロケに参加させていただきました。
 このロケでは、漫画家・おざわゆきさんがご自身のお母様の名古屋での戦争体験を基に描いた漫画「あとかたの街」の主人公あいちゃんが、空襲時に逃げた道をたどりながら、当時に思いを馳せました。

 当日は、主人公・あいちゃんの自宅があった場所や、その後人々の生死を左右することとなった防空壕跡、作中でも印象的な場面となった鶉橋(うずらばし)などを訪れました。
 訪れた場所は目立った空襲の痕跡は見つからず、日常の風景として私たちの生活に違和感なく溶け込んでいます。それにも関わらず、約80年前には、空襲によって辺り一面火の海に包まれていたということに強い衝撃を受けました。特に、防空壕があったであろうと思われる場所には大きな道ができていて、まさに自分が立っているこの地が、多くの人にとって生死の分かれ目となった場所だったという事実に、身を切られる思いがしました。
 また、あいちゃんが空襲時に逃げた道の距離感や、漫画に出てくる場所の位置関係などについて、実際に訪れたことで細部まで理解を深めることができました。

 この経験を踏まえて、文字や映像だけでは伝わりきらない詳細な部分を理解することは、戦争があったということを身近に感じて、自分のこととして考える良い手がかりになると思いました。

 今回のロケでは、「あとかたの街」に直接出てくるわけではありませんが、今も戦争の悲惨さを伝えている千種公園の爆撃痕塀にも訪れました。そこで見た塀には、名前の通り空襲で受けた爆撃による穴が開いていて、その穴の大きさに驚くとともに、一見頑丈そうに見える塀に穴を開けられるほどの威力を持つものが人に向けて落とされていたという事実がひしひしと伝わってきて、胸が締め付けられました。
 だからこそ、戦争の悲惨さ、むごさを、今を生きる私たちに伝えている爆撃痕塀の存在理由を痛感し、これからは私たち若い世代が守っていかなければならないという強い使命を感じました。