夏の企画展「新美南吉の生きた時代―文学と戦争と平和」に寄せて 
運営委員  坂井 栄子






展覧会場の様子1

展覧会場の様子1

足跡をたどる旅

 

 企画展として新美南吉を取り上げようと参加者を募り、18名ものボランティアでスタートして2年。
 その間に愛知県半田市にある新美南吉記念館を訪れたり、足跡をたどる旅をしたり、識者のお話を聞いたりして、南吉への理解を深めてきました。もちろん、南吉の作品をできる限り読むことにも心がけてきました。
 ところがわずか29歳で世を去ったのに、創作作品は童話、小説、童謡、戯曲、詩など多岐にわたり、全てに目を通すのはとても難しい作業でした。

 南吉の作品で表現されているのは人間や動物に対する愛情です。代表作といわれる「ごんぎつね」では、心情を表すしぐさや景色で次第に共感していくという物語の展開になっており、心惹き付けられます。
 没後80年経っても小学校国語教科書の教材の定番として取り上げられているのは、多くの人がそれらの共感を覚えてきたからでしょう。

 南吉は畳屋の息子としては異例の半田中学に進学します。その頃から新聞や雑誌を読むことにより、社会に対する関心が強くなります。
 中学4年で戦争や中国のことを調べ「張紅倫」、5年で当時の岩滑の部落で民族差別を超えた友好があったことを示す「アブジのくに」を書きます。

展覧会場の様子1

生家

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安城の下宿

 

 東京外語学校4年生の時に書いた「ひろったらっぱ」で貫いているのは反戦と平和への思いです。あらすじは戦意高揚を駆り立てるラッパを拾った青年が戦争により田畑を荒らされた村人に出会い、戦争に行くのをやめ、村人を助ける話です。
 書かれたのは日本人の大部分が戦争に熱狂した時代でしたが、南吉は良心に忠実であろうと迷いつつも平和を願っていたといえるでしょう。ただ、残念ながら当時は自由に物が言える時代ではなかったがために発表されず、戦後になってから世に出ました。平和を愛した南吉としての評価が高まることを期待したいです。

 「センソウハ モウタクサンデス」という作品の中の言葉は、いつ終息するかもわからないロシア・ウクライナ戦争の当事者にぶつけたい思いです。
 企画展では参加した人それぞれが、自分たちの勉強した成果や思いをパネル展示で表現しています。南吉のいろいろな側面を見ていただければ幸いです。