初めての語り継ぎを終えて
語り継ぎ手の会(リボン)会員  澁谷 美子

                                           
 

 2月26日、東浦町に教室があるNPO法人伝統派防具付空手道教育振興会様からのご依頼により、愛知県青年の家にて初めての語り継ぎをしました。私が語り継ぐのは上野三郎さんの戦争体験。子どもが多く、年齢の幅が広い中で、上野さんの体験をどのようにお伝えすればいいのか。特に語りの言葉は、ギリギリまで悩み考え続けました。
 その最中に上野さんの訃報が届きました(1月24日に御逝去 108歳)。コロナの状況が落ち着いたらすぐに直接お会いしたいと思っていたので、ショックでした。それから語り練習をしようとしても思いが込み上げてきて進めることができない日が続きました。

展覧会場の様子1

語り継ぎをする澁谷さん

 

 上野さんの人生の一部分である戦争体験と向き合い積み重ねてきた時間が私の中で大きなものとなり、貴重な時間になっていたのだと改めて感じました。語り継ぎ手だからこそできる経験なのだと思います。このような状況で当日は大丈夫だろうかと思いながら語り継ぎの日が近づいてきた頃、ロシアがウクライナに侵攻したという衝撃的なことが起こりました。
 今、この時に語り継ぎをすることには大きな意味がある。子ども達に上野さんの平和への思いがしっかり届けられるように、精一杯の思いを込めて語り継ごうと決意を新たに当日を迎えましたが・・・。会場に到着すると4歳の男の子もいて、驚きと緊張感が一気に高まりました。子ども達が最後まで姿勢よく一所懸命に聞いてくれる姿に心を打たれました。その姿に背中を押されながら、最後まで語り継ぐ事ができました。

 

  後日、上野さんのご自宅に伺いご霊前に報告をさせていただき、私の初めての語り継ぎを終えることができました。上野さんには生前、語り原稿に目を通していただくことができました。「よくここまで調べて、なおかつ理解してもらっている」と喜んでいたと、ご家族の方が話してくださいました。この言葉は、私の救いとなり今後の励みになります。

 

 連日のロシア、ウクライナの報道に戦争の無意味さを感じずにはいられません。そして、被害を受けているのは何の罪もない人々です。今後も上野さんの語り継ぎを通して、私のできることをしていきたいと思います。
 最後になりましたが、事前準備から当日まで全面サポートしていただいた「ピースあいち」のスタッフの皆様、上野さんのご家族のご理解とご協力があり、初めての語り継ぎを無事に終えることができました。心から感謝申し上げます。