連載②「日本国憲法を学びなおす」 

五月、そして憲法━96条改憲問題(その2)(2013年)
    (野間美喜子遺稿集『向日葵は永遠に』より)
                                           
 

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外国の改正手続きをみる

 次に諸外国の改正規定を見てみよう。

 

・ 朝日新聞は2013年3月13日の社説で、「3分の2の意味は重い」という題で比較表を掲げて諸外国の憲法改正規定について、「大多数の国は厳しい制約を課している」と書いている。

・ 2013年3月14日付で日本弁護士連合会が出した「憲法96条の発議要件緩和に反対する意見書」は、以下のように諸外国の改正手続きを詳しく紹介している。

「日本国憲法第96条と同じように、議会の3分の2以上の議決と必要的国民投票を要求している国としては、ルーマニア、韓国、アルバニア等がある。ベラルーシでは、議会の3分の2以上の議決を2回以上要求し、さらに国民投票を必要とする制度である。フィリピンでは、議会の4分の3以上の議決と必要的国民投票を要求している。日本国憲法よりさらに厳しい要件である」

「国民投票を要しない場合にも、再度の議決が要求されるものや、連邦制で支邦の同意が要求されるものなど、さまざまな憲法改正手続きを定める憲法がある。例えば、イタリアでは、同一構成の議会が一定期間を置いて再度の議決を行い、二回目が3分の2未満のときには要求があれば国民投票が行われる。アメリカでは、連邦議会の各議院の3分の2の賛成と4分の3の州議会の承認を必要とする。なお、ドイツでは議会の3分の2以上の議決、フランスでは国民投票又は政府提案について議会の議決と両院合同会議による再度の5分の3以上の議決によって憲法が改正される」

 このように厳しい改正要件であっても、多くの国では、これまで多くの憲法改正がなされている。アメリカは戦後6回、ドイツは59回、イタリアは16回、フランスは27回、韓国は9回だそうである。外国では、要件が厳しくても、必要な憲法改正はなされている。「96条の要件が厳しすぎるから、日本ではこれまで憲法改正がなされなかった」などというのは、全くのウソであることが分かる。
 日本では、国民が憲法改正の必要を認めず、憲法改正を望まなかった結果に他ならない。

96条改憲論を論破

  以上を踏まえたうえで、96条改憲論を見てみよう。
 「96条は、国民が憲法を改正するべきかどうか、主体的に参画する機会を奪っている」 「国民の60~70%が変えたいと思っても、国会議員の3分の1をちょっと超える人たちが反対すれば、指一本ふれることができない。これはおかしい」という。

 反論しよう。

 世の中には、重要なことを決するには構成員の3分の2以上の賛成を必要とするというルールは実に多い。組織や団体の基本を変える時など、重要な事項の決定は3分の2の特別決議を要件にしている。会則の改正、定款の変更などは当然特別決議である。会社法を見ると、株主総会で特別決議を要する事項はずらずら並んでいる(定款変更、事業譲渡、組織変更、合併、解散・・・)。
 これらは、「いずれも3分の1をちょっと超える人たちが反対すれば、指一本触れられない」ことになっているのだ。組織の基本に関わる重要事項は、十分議論して、3分の2以上の人たちの賛成を得てやる。3分の2以上の人たちを説得できないことはやめようというのが、長い経験からくる人間集団の知恵であり、世界的に認められているルールでもある。

 国会の発議要件が厳しくなければならない理由は他にもある。選挙制度の問題がある。現行の選挙制度では、「衆院選は、小選挙区導入による過去三回、第一党が4割の得票で7割の議席を獲得した。さらに要件を緩和すれば、国民の少数意見で改憲案が国民に発議される可能性がある」(衆議院憲法審査会での民主党武正公一の発言)。
 国会は往々にして国民の多数意思を正しく反映しない。選挙では、一つ一つの政策や考え方で人を選ぶことが出来ないからだ。公約はパッケージになっており、抱き合わせで選ばされる。パッケージで多数を取ったからといって、政策別でみれば多数を取ったとは言えない場合も多い。「過半数決議」では全く危ういのである。

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※今月は、諸外国の憲法改正手続きとの比較と、日本国憲法第96条が、改憲の発議要件として何故国会議員の3分の2以上の賛成を要求しているのか、その理由を考えました。来月号の「その3」に続きます。