夏の企画展『少女たちの戦争~青春のすべてが戦争だった』 7月13日開幕です
運営委員 下方 映子

                                           
 

 例年当館が最も力を入れる、通称「夏企画」。今年2021年のテーマは「少女たちの戦争」です。コロナ禍が無ければ昨夏に開催予定でしたので、実に足掛け2年も取り組んできたことになります。本展では、戦時中に女学生だった世代の戦争体験にスポットを当てます。

展覧会場の様子1

戦局が厳しくなる前の少女雑誌。美しい表紙、花や蝶のイラストで飾られた付録は、間もなく姿を消す

女学生という世代
 戦時中の「女学生」というのは、今の中学生・高校生にあたる12歳~16、17歳の少女たちです。1945年の敗戦を多感な女学生として迎えた少女たちは、その15年前に起きた満州事変の頃に生まれています。
 物心がつくあいだに、2・26事件、南京事件、真珠湾攻撃と立て続けに歴史的大事件が起こり、女学生となってからはまさに、敗戦への急坂を転げ落ちるような毎日だったはずです。たった15年の人生の歩みが日本の最も暗い戦火の時代とぴったり重なる世代とは、いったいどういうものだろうか? それが、企画を考える最初の段階で浮かんだ問いでした。

展覧会場の様子1

看護婦になるための通信教育の広告は、当時の少女雑誌に数多く見られた。連載小説でも従軍看護婦が活躍し、国に奉仕する職業婦人への女学生たちの憧れをかきたてた

「少女」であるということ
 同じ年頃の少年たちは、良くも悪くも、男として軍国日本の真ん中で生きていました。しかし、中心から少し外れた場所で生きる少女たちには、また違う日本が見えていたのではないでしょうか。名古屋空襲を描いたマンガ『あとかたの街』にこんな場面があります。
主人公あいが、軍人である“班長さん”に戦争への素朴な疑問を尋ねたところ
「女や子供はなあ、黙って言うこと聞いて働いておればいいんだ!」
「この国は日本の男が支えとる」
と怒鳴られ、殴られてしまいます。
 しかし、その時に感じた理不尽さや怒りをずっと心に持ち続け、彼女は戦火を生き抜きます。
 戦争こそ無いけれど、21世紀になって久しい今日でもジェンダーギャップ指数がなかなか上がらない日本。「あの頃とは違う」と、少女たちが胸を張れる国になったでしょうか? いろいろ考えてしまいますね。当時の少女雑誌の記事や広告、付録などの資料も展示します。少女たちを取り巻く社会の空気を感じていただけたら、と思います。

展覧会場の様子1

空襲で大破した金城女子専門学校の栄光館

知っているあの学校も・・・
 地元の女学生に焦点を当てた企画は、当館にとって初めての試みです。
 今回取り上げた女学校は、戦後に男子校である中学校と統合されて共学の公立高校となった学校もあれば、今も同じ名前で続く私立校もあります。その名前を聞けば、何かしらの繋がりを持つ方は多いのではないでしょうか。
 そのような馴染みのある学校で、セーラー服がモンペに変わり、英語の授業が無くなり、危険な軍需工場へ動員され、校舎には爆弾が降り注いだのです。
 遠い時代の遠い場所ではなく、皆さんがよく知っている学校で、76年前に本当に起きた出来事です。きっと初めて知ることがたくさんあると思います。この夏休み、若い皆さんのご来館をお待ちしています。