「戦争とスポーツ」から「平和とスポーツ」へ
運営委員 吉岡 由紀夫

                                           
 

 スポーツは「時代を映し出す鏡」と言われます。いま、ピースあいちで開催中の『戦争とスポーツ』展(5月22日まで)は戦時下のスポーツやスポーツ選手たちが国家に利用され、翻弄された事実を展示しています。

展覧会場の様子1

展示会場

 この企画展は2020年開催予定だった東京オリンピックを前に、「来年の8月には東京オリンピックが開かれます。すでに一大イベントとして多くの人たちの関心を集めているようです。今回は、これを機にスポーツと戦争について考えてみることにしました。具体的には、戦争の犠牲となったスポーツ選手やオリンピックにスポットを当て事実の紹介を中心とする展示を行います。戦争と平和について考える一助になれば幸いです」と取り組みを始めました。
 戦争に翻弄されたスポーツとスポーツ選手たちについては展示を見ていただくこととして、ここでは、スポーツが平和を考える一助になると思われる最近の動きに注目してみたいと思います。

 ラグビーではワールドカップ(男子)が2019年日本で開催されましたが、日本代表選手31人中16人が外国生まれでした。ラグビーは国籍を持たなくてもナショナルチームに加われるのです。成城大学海老島均教授(スポーツ社会学)は、「国籍のある選手が代表になるのが多くの日本人の感覚だろう。ただ、海外では二重国籍も珍しくなく…希望する代表を選ぶことができる。その地域・国に住んでいる外国選手が代表に入れるラグビーは健全とも考えられる」と語っています。
 スポーツの国際化、多国籍化ではテニスの大坂なおみさんは「日本」を代表するようになっています。ちなみに野球やサッカーの日本代表はまだ「国籍」が条件です。

 2019年サッカー女子ワールドカップで優勝した米国代表のラピノー選手は、政治利用を狙ったトランプ大統領(当時)に対し、「憎むことをやめて愛そう。私たちにはより良い世界をつくる責任がある」というスピーチを行いました。

展覧会場の様子1

スピーチするラピノー選手

 2020年1月1日付の中国新聞の『新春対談 共に生きる 次の10年へ』)の上野千鶴子さんとの対談で作家の星野智章さんは、このラピノー選手のスピーチに、「レズビアンの彼女は、多様性の生きた見本として自分を見せている。スポーツがナショナリズムに加担しにくい状況をつくり、兵士の心身の形成に密接に関わってきた近代スポーツから脱皮しようとしている(太字は吉岡)。五輪に風穴をあけ、違う文化に変え得るのは、女子サッカーなどの女子のスポーツだと思います」と語っています。
 スポーツが平和をつくる取り組みで大きな役割を持っていることが、これからの未来を切り開くことにつながるー「戦争とスポーツ」の展示作りから、「平和とスポーツ」について考えを深めることができました