◆修学旅行で訪れた「ピースあいち」
香川県高松市立塩江中学校 鳥井 徹            

                                           
 

 子どもたちのふるさと塩江町(しおのえちょう)は、高松市の南部にあって徳島との県境に位置し、山や川の清流、ホタルなどの自然が豊かで温泉もあるところです。本校は、全校生58名の小さな学校です。素朴で人懐っこい生徒が多いのですが、主体性やコミュニケーション力にやや課題が見られます。
 今回、3年生18名は、4月12日(金)より3泊4日で、これまでの北・中九州、沖縄、東京ではなく初めて中部・東海方面への修学旅行に行きました。おそらく県内でも初の試みだと思われます。主な見学地は、伊勢神宮・名古屋城・トヨタ博物館・ナガシマスパーランド・富士山・名古屋港水族館(残念ながら臨時休園でシーライフ名古屋に変更になりました)で、学校発着の全行程をバスで移動です。この旅行プランを立てる際に困ったのは「平和学習」の部分です。

 本県では、北・中九州方面への3泊4日の修学旅行が四半世紀にもわたり続いておりました。私自身も中学生のときに参りました。その際には、長崎平和公園での平和集会を中心に据えた平和学習を組み立てておりました。
 事前学習として長崎医大の永井隆博士の「この子を残して」を読み、如己堂で白血病に侵され寝たきりになっていた博士と2人の幼子が暮らしていた事実を押さえておきます。
 長崎では、平和集会の中で自分たちが折った千羽鶴を奉納して平和宣言をし、原爆資料館で語り部さんの話をお聴きしたり見学をしたりした後、平和公園から大浦天主堂までの間で如己堂や浦上天主堂など平和学習に関してどこに立ち寄るかのコースを事前に考え計画しておいて、自分たちで電車等を利用して見学していく班別自主体験学習を取り入れておりました。

 2000年頃からだったと思われますが、沖縄への修学旅行が増えていきました。飛行機で行くため費用がかさみ、ほとんどが2泊3日になりました。唯一国内での地上戦が行われた場所ということで、平和学習はひめゆりの塔・平和祈念公園の平和の礎(いしじ)での平和集会や千羽鶴の奉納を中心に据えたものになりました。
 事前学習としては、「かんからさんしん」「対馬丸事件」のDVD教材を活用しながら沖縄戦の悲惨さや理不尽さについて学習しました。旅行先では、ホテルに語り部さんをお招きしたり、ガマの中に入る体験とともにその中で戦争体験を語っていただいたりしました(先日、語り部のお一人の長田勝男さんの悲報を知り、もう話をお聴きできないと思うと残念でたまりません)。
 最近はだんだんと民泊の日を設けることが増えてきておりますが、教師の手を離れる部分も多くなるためか、沖縄への修学旅行自体が本県では徐々に減少する傾向にあるように思います。

 沖縄とともに県内の修学旅行の目的地として選ばれているのが、東京方面です。本校でもここ5年間は沖縄よりも選ばれることが多かったです。やはり、飛行機で行くため費用がかさむため2泊3日となり、3日間で浅草寺やスカイツリーの見学、夜にはルミネtheよしもと・浅草演芸場の観劇やプロ野球観戦、上野公園を散策しディズニーランドで遊ぶ、国会議事堂や最高裁判所の見学などをかけ足で行います。
 平和学習の部分は、事前に向田邦子さんの「ごはん」や絵本「かわいそうなぞう」などを使って東京大空襲について学んでおき、深川にある早乙女勝元さんが作られた東京大空襲・戦災資料センターを訪問して語り部さんから実際に空襲を体験された話をお聴きします。語り部さんに千羽鶴をお渡ししたり、上野動物園の動物慰霊碑に千羽鶴を奉納したりしました。
 しかし、東京への修学旅行では、平和集会ができないことや事前・事後の学習を深められないことなどから、平和学習はできてもやや弱くなってしまうというのが実感でした。

 さて、今回の中部・東海地方方面への修学旅行ですが、私どもからの「平和学習ができるところを」という要望に対し真摯に応えてくださったのが名鉄観光さんであり、旅行プラン中のその部分が充実していたという理由で名鉄さんが入札を果たしたと聞いています。
 伊勢神宮から名古屋市内に入りピースあいちさんに向かうバスの車中では、添乗員さんとバスガイドさん共同の手作りによるDVDを視聴させてもらいました。内容は、ヒロシマの少女佐々木禎子さんの折り鶴のビデオ資料、アメリカのB29爆撃機の資料、知覧の陸軍特別攻撃隊員の資料を映像や音楽も取り入れながら編集したものでした。車中で心構えをつくっておいて「ピースあいち」を訪問できるようにというお二人の配慮でした。

 私は、東京大空襲・震災資料センターへも、またピースあいちさんへも事前に下見に行かせてもらいましたが、どちらも中心になって組織や建物を作り、資料集めをなさった方はおいでるものの、そこから引き継いで運営しておられるのは、本当に無償のボランティア・スタッフの方々であるという点が非常に似通っているなあと感じさせられました。また集めておられる資料がどちらも充実していて、地域に根ざした施設だからすごいのだろうなあと感じました。
 ちょうどピースあいちさんを下見で訪れた際には、私どもの高松市に住み学校等に通われたご経験のあるお二人の方が対応してくださり、大変心強く思われ、安心して学習をお任せすることができたと感じております。ボランティアガイドとして説明をしてくださる方のなかには教員経験のある方も多いと聞きました。当日のガイドさんお二人も、事前に入念にご準備されて臨んでおられるのだろうなあと想像しながらお話をお聴きしました。



展覧会場の様子1展覧会場の様子2

熱心に説明を聞く生徒たち

 

 今回は、バスでの移動時間の大変長い旅行であるため、ピースあいちさんでの滞在時間が1時間しかとれず、語り手さんのお話をお聴きすることがかないませんでした。あと30分時間を確保できていたならなあと後悔することしきりでした。
 本校では、この学習を受けて、平和学習の総まとめとして8月下旬に広島へ日帰りの訪問学習を企画しています。これから6月上旬には後輩たちに修学旅行報告会で自分たちが学んだことを報告し、8月には広島平和公園で集会を開き、語り部さんからのお話をお聴きし、原爆資料館をしっかり見学してきたいと考えています。

 それにしても、名鉄観光さんやピースあいちさんには感謝しています。ピースあいちさんで名古屋の空襲について、戦争の恐ろしさや平和の尊さについてしっかり学んだあと、空襲によって消失した名古屋城を見学する行程を組んでくださった真の意味を理解することが実際に移動してみてはじめてできました。名古屋市民、愛知県民にとってなくてはならない誇りである名古屋城を失った悲しみの大きさは計り知れず、今なお再建に力を注いでおられる気持ちが痛いようにわかりました。名古屋城の入場可能時刻ぎりぎりに到着し、生徒も教職員も添乗員さんもガイドさんも全員が全速力で走ったこともよき思い出になりました。
 「ナガシマスパーランド」では、男女生徒全員の連携プレーで一人の迷子の幼児を助けて母親のもとに連れて行くことができたという(よい意味での)「事件」が起こりました。冒頭で、本校の生徒は主体性やコミュニケーション力にやや欠けると言いましたが、その言葉は撤回してもよいと考えています。この修学旅行を通じて子どもたちはずいぶん成長してくれました。皆様に感謝します。本当にありがとうございました。