映画『ひろしま』上映会にあたって   
愛葉 由依           
   



昨年開催された「原爆の図展」オープニングでは、愛葉由依さん(当時、名古屋市立大学人文社会学部国際文化学科4年)に、ご自身の卒業論文『今は言える、自由に―広島で被爆した祖父が語る―』についてお話しいただきました。そのご縁で2月19日、映画『ひろしま』の上映スタッフとして参加、また上映前のスピーチをしていただきました。

加藤さんと堀田さん

 原爆と聞くと、「広島」「長崎」を頭に浮かべる方が大半でしょう。しかし、広島・長崎での被爆後、兵隊としての任務を終えての帰還、集団就職、差別から逃れるため、など様々な事情で全国に被爆者の方々が移り住み、現在も暮らしています。
 では、愛知県にはどのくらいの広島・長崎の被爆者が暮らしているのでしょうか?愛知県では手帳所持者だけでも約2000人の被爆者の方が、今もいろいろな思いを抱えながら暮らしています。この事実を知ると、被爆、原爆という問題が、広島・長崎のみのものではなく、私たちのより身近な問題として感じることができると思います。

 

 映画『ひろしま』は、広島での事実を描いたものではありますが、広島・長崎で被爆された方々が全国に散らばっていることを考えると、この映画のなかで描写されるような状況を懸命に生き延びた被爆者の方々が、私たちの身近にもいるかもしれないということを想起させる側面も持っているかもしれません。

 

 現在、私は、被爆者のライフヒストリーをテーマに研究をしていますが、被爆者のなかでも愛知県に暮らしている方々を対象としています。愛知県に暮らす被爆者のなかには、愛知県にも被爆者が暮らしていることを知らない人もいるという事実に驚きを隠せない方もいらっしゃいます。今でも広島・長崎に暮らしている被爆者に一般的な注目が集まる一方で、埋もれつつある愛知県の被爆者の語りに耳を傾けることも必要であると私は考えています。

 

 また、原爆投下時のみならずその後の生き方も含めたライフヒストリーや個人の語りに焦点を当てることで、太平洋戦争、原爆投下などといった歴史的事実と個人の生き方がどう絡み合っているのか、最近ではオバマ大統領の広島訪問など世界情勢がめまぐるしく変化するなかで、被爆者との間にどのような相互作用が生まれ、心情に影響を与え、被爆者自身の認識が変化してきているか、ということまで理解することができると思っています。

  『ひろしま』という映画は、1人の少女が1945年8月6日を回想しながらも原爆投下のみでなく、原爆病、差別、学校生活など周縁部まで視覚的にも内容的にもリアルに描いている点で、広い視野で広島の原爆を感じることができる作品であると思います。