子どもたちは「学童疎開をどう学んだか」
     -「ピースあいち」からの発信と授業実践-   
ピースあいち研究会   丸  山   豊



 毎月第4日曜日の午後、「ピースあいち」ではボランティアによる自主的学習会が行われます。10月のテーマは「70年前、名古屋から来た子たち」でした。報告は三重県松阪市立豊地小学校の草分京子先生。この授業実践のきっかけは運営委員の村上扶左雄さんです。どんな内容だったのか、10月研究会での報告を簡単にご紹介します。

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 学童疎開を現在の5年生が、教師の予想を超えて学び始め、同年代の当時の疎開児童の心を自分と重ねて、戦争と疎開の本質に迫る実践でした。きっかけは、「ピースあいち」の村上さんのお話でした。

絵はがき

[松阪市豊地小で疎開体験を語る村上扶左雄さん]

 村上さんは昨年8月、草分先生が勤務する豊地小の平和集会に招かれ「70年前、名古屋の正木国民学校から豊地小に疎開した体験」を子どもたちに語りました。「こんなことがあったのか」と子どもたちは驚き、「疎開ってなんだろう」「当時の豊地は?」など学童疎開を地域の問題として捉えはじめます。 

 草分先生の授業はここからスタートしました。子どもの驚きと関心は、地域の人から70年前の名古屋からの学童疎開を聞き取ることへと発展します。
 次に草分先生は、「もしあなたなら疎開に行くか、行かないか」と問います。意外にも「行かない」方が多かったのですが、草分さんは「その時の子どもたちもきっと行きたくなかったし、お父さんお母さんも悩んだんだろうね」と共感を示しつつ、次の発問で児童を揺さぶります。
「ではどうして疎開をさせられたのか」と疎開の本質に迫ります。ここでさまざまな意見が子どもから出ます。
 資料として、戦時中の文部大臣の談話「学童疎開は子どもの出陣であり、未来の兵士。お国のために尽くすことができる」を示すと、子どもたちは「やっぱりそうだったのか」と驚きながら理解するわけです。
 草分先生の本領発揮はここからです。
 当時の学校日誌の中に豊地小で2人(男子1女子1)の疎開児童が死亡した記載を発見、この事実を子どもたちに考えさせます。子どもたちは2人の子の死が終戦直後の9月だったことに驚き、悲しみます。また死因が赤痢や食べ物が原因だったことを知ります。次に草分先生は死んだ子の姓を頼りに、名古屋の関係者や肉親を尋ね歩き、ついに男の子のお姉さんに出会いました。
 子どもたちの思いは「戦争とは何か、命とは」に広がり、授業の中での交流が始まります。実の姉に当たる方は、豊地の子どもたちが70年たって弟のことを学んだ事実に感激して手紙が届きます。
まさにドラマです。
 学校日誌と村上さんの話をもとに、脱走、シラミ、イナゴ取り、開墾、桑の葉、養蚕、食事の記録、面会など、疎開を演劇にして地域の人にみてもらいました。すると地域の人は子どもたちと先生の優しい取り組みに涙を流したそうです。

絵はがき絵はがき

左/児童画 [正木小から豊地小への疎開出発式](あたかも兵士の出征を思わせます) 右/児童画 [名古屋へ逃亡する子]

 授業はこれで終わりません。子どもたちは記録を残して次の世代に伝えようと、「絵」でそれぞれ表現します。その絵が素晴らしく、子どもの感性と表現力の豊かさに私たち研究会の参加者も感激したほどです。それ以上に、これらの児童画は「学童疎開の本質」をついており、歴史教育の観点からも高く評価されます。

 この報告の最後に、村上さんはこう締めくくりました。
「この絵をみて今日の話を聞いて、いい死に土産ができた。」思い残すことはない、というほどの満足げな表情に、皆さんも納得?「ピースあいち」から確かな学びが広がったと感じました。また改めて小学校の先生の授業の深みと指導の広がり、教師の力量に触れた充実した研究会になりました。
 この草分先生の実践が、今夏の名古屋市博物館「学童疎開企画展」につながります。本来ならピースあいちの課題だったかもしれませんが・・・・。(2016.11.15記)

絵はがき

名古屋市博物館「学童疎開企画展」記事 中日2016.8.15
この博物館の展示には草分クラスの子どもたちの「疎開の絵」が展示されました。博物館企画と教育実践が一体化した展示となり、高く評価されました。

補足
[草分先生へのお礼のメール(丸山から)]
 本日はありがとうございました。
とても新鮮で、教育の本来の姿を知ることができたばかりか、ピースあいちの今後の役割にも一石を投じた報告でした。
 特に草分先生の子どもへの共感と埋もれた歴史への感性溢れる情熱は、先生の「優しさ」
から発するものだと、納得しました。(豊地少の子どもの顔が浮かんできましたよ)
子どもの疑問や実態から新たな授業を展開し、新資料発掘で子どもの認識を高めていく授業づくりに、大いに学ぶところがありました。真のアクティブ・ラーニングです。(2016.10.23)

[草分先生からの返信メール]
 こちらこそ、みなさん熱心ですごいなあと思いました。
いい機会を与えてくださってありがとうございました。で、ちょうど博物館の学芸員さんにメールすることあって、「ピースあいちの関係者が、あの展示は良かった。博物館もなかなかやるもんだって言ってましたよ」とメールしたら、
「ピースあいちの関係者にそう言ってもらえたら、もうそれだけでやって良かったと心からそう思います。博物館は何やってるんだと、いつも思われているのも聞こえてくるので」と返信ありましたよ。
私は「ピースあいち」さんや博物館さんから学んでばかりです。
どうぞこれからもよろしくお願いします。(2016.10.25)