「peace nine 2016」巡回展のギャラリートークに参加して   
ボランテイア 大久保 勝子



 ピースあいちで9月24日(土)まで開催の「peace nine 2016」巡回展は、名古屋芸術大学の学生や、先生、大学外部作家らによる、憲法9条や平和をテーマにした美術展である。9月13日(火)に出品者によるギャラリートーク(作品解説)が開催された。

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展覧会場

 ギャラリートークは、「peace nine」を立ち上げた名古屋芸術大学・西村正幸教授の3点の作品から始まった。先生は、ウガンダの里親の男の子との手紙のやり取りを作品にまとめ、3つの絵画にしたと語られた。

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西村正幸先生の作品

 それはブルーの色調のとても落ち着いた安定感のある作品で、優しさが醸し出されていた。「なぜ、ブルーなのですか?」という質問に、初めの頃は赤や黒を使っていたが、激しすぎると感じはじめ、心の平和を保つ「青」にした。最近は青を使うことが多いと、優しい穏やかな顔をして言われた。激しく争うことではなく、平和こそがテーマなのだと言っておられるのだ。ギャラリーの皆は安心したように、次の作品の方へ移動した。

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木下千穂さんの作品

 次は、名古屋芸術大学の学生たち本人が作画の意図を語ってくれた。
 彫刻コースの木下千穂さんは、「私はいつも閉じこもっていたが、今回思い切って出品を考えた。作品を創造する前は、戦争を知ろうとしなかった、知りたくなかった。しかし今回、戦争の時などを想像し、紙粘土で作ったサイコロと色で、いろいろな場面を表現した。戦争の時でも青空の日があったであろうと、きれいな水色で造形した作品もある」と表現者の顔で語った。平和を思う心を形にしていた。

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平塚麻未さんの作品

 コミュニケーションアートクラスの平塚麻未さんは、マーメイド紙にアクリル、クレヨンで制作した「生きていく」という題名の2枚の絵画について語った。「 1944年アメリカで14歳の黒人の少年が無実の罪で処刑された。白人だけの陪審員によるたった10分の審判で。大きなことにぶつかるのは運命なのか!その怒りを赤でエネルギーとして描いた。もう1枚の絵は、伊藤若冲の描き方を研究して描いた。寂しそうな枯れた植物の中に、目立たぬように描かれた蓮の蕾は、新しい命の芽吹きを象徴する。人生は一度大きなことにぶつからなければならないというのであれば、私たちにはどんなことが待ち受けているのか。天明の大火ですべてを失った若冲、無実の罪で処刑された少年の運命から、新たに起こるかもわからない戦争や大災害で大切なものを失ってしまうかもしれない私たちのテーマとして「生きていく」を表現した」と。

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大沢理沙さんの作品

 次は、版画コースの大沢理沙さんの版画である。大沢さんは、戦争を調べるために、まず図書館へ行った。じっくり学習した後で、すべての戦死した人たちを思い、空の中に命を奪うものが隠れないように、ただ、ただ、晴れ渡る空を永遠に広げて、多くの助け合う人の手を円のようにし、中心に人間を描いた。そこには赤ちゃんが宿っていた。もう一枚の作品には、自分の姉が結婚して身籠り、赤ちゃんを出産した時の喜びの衝撃を描いた。人間が人間を生み出すことを目の当たりにし、その感動を表現していた。
 この時、私は、戦争中に防空壕の中で赤ちゃんが産まれた『生ましめんかな』という詩を思い出した。

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長谷川直美先生の作品

 最後は、この巡回展を企画し、各地に展開している美術学部版画コース非常勤講師の長谷川直美先生のパステル、オイルパステル、コンテによる作品「見えない世界に生きる基」の解説があった。テーマは沖縄である。
 ベースは新聞紙である。琉球新報、沖縄タイムズ、中日新聞の6枚を縦に3枚ずつ2列に並べた、その上に黒で描き、蝶と花にはカラーが施されている。右の一番下は悩む自分の姿。その上は目を閉じて口をつぐむ人々の中で、一人目を開けた人が居る。その上は蝶々が多数カラフルに描かれ、中には黒蝶もいる。もう一列には、下から魂を受け止める手、その上は生まれてくる胎児たち、一番上には花-沖縄の「平和の礎(いしじ)」に手向けられていた花々。「激戦地だった地に足を踏みいれた時、地面に死体が一杯埋まっている…と感じた」と長谷川先生は語っていた。
 色の付いていない新聞の活字が、何かを訴えているように、私には感じられた。信頼に基づいた新しい未来の世界を創ることができるのではないか、この6枚の新聞紙全体は、風があればふわりと揺れて軽いのだが、沖縄を思う先生の心が重く描かれている。

 「peace nine 2016」の美術展には「平和への若い人達の思い」が溢れていて、とても頼もしく嬉しく感じた。平和を守ろうと、みんなで頑張っていきたいものです。