「模擬原爆パンプキン」が児童文学のテーマに                金子 力                             


「パンプキン!模擬原爆の夏」 令丈ヒロ子・作 宮尾和孝・絵 講談社 1200円

「パンプキン!模擬原爆の夏」 講談社


 今年の夏、大阪の知り合いからうれしい便りが届きました。
児童文学作家の令丈ヒロ子さんが講談社から『パンプキン!模擬原爆の夏』を出版される、という知らせでした。

「令丈さんって知ってる?」
と妻に聞くと、
「おとうさん、何にも知らんねんね!令丈さんは小中学生の女の子に人気の作家やんか。『若おかみは小学生』のシリーズは春日井の図書館でひっぱりだこやで、その人がおとうさんのこと本にするの?」
おかしな話になっていきそうです。
「ちがうがな、こんなおっさんが子どもの本のテーマになるかいな」
「そらそうやね」
「僕らの『春日井の戦争を記録する会』が、1991年ちょうど20年前に埋もれていた歴史を発掘して、模擬原爆パンプキンの存在がわかったやろ」
「あの時は新聞やテレビが大きく取り上げてくれはったねえ」
「そうや、日本の広島・長崎に原爆を投下したアメリカが、日本各地に49発の模擬原爆パンプキンを投下していたことは、日本国内では公表されてへんかったんや」
「ようわかったね」
「それが偶然やったんや。春日井の空襲を調べてたら、8月14日に今の王子製紙の場所に爆弾が落とされてたんや。」
「8月14日と言うたら、終戦の前の日とちがうの」
「そうやねん。あと1日で戦争が終わるという時に、空襲で家を焼かれたり、命を奪われたりしたんや。」
「そんなあほなことがあるの」
「それでな、そこんとこを調べて行ったわけや。何のために終戦前日に春日井に爆弾を落としたのか?」
「そんなことわかるの?」
「アメリカ軍はちゃんと記録を残しとるんや」
「いつのまにアメリカへ行ったん?」
「行ってへんけど、東京の国会図書館に資料があるんや」
「それでわかったん?」
「いや、それがな、1944年11月から1945年8月までのB-29の出撃記録を調べたけど、8月14日に春日井はおろか愛知県に行った飛行機が無かったんや」
「見落としたん違う?」
「いやなんぼ見直しても無いんや」
「それであきらめたらだめよ」
「そこで調査は行き詰ったんやけど、『全ての出撃をカバーしているはずの出撃記録に無い』ということがわかったんや」
「何やの、そんなんただのわからんことといっしょやん」
「いや、ちがうんや。ひとつだけ例外があったんや」
「例外?」
「広島・長崎に原爆を投下した部隊の記録は誰も見てなかったんや」
「広島や長崎の資料館や研究所の人も見てなかったの?」
「誰も見てなかったかどうかは自信が無いけど、2発の原爆と49発の模擬原爆が一続きの作戦であったことには気づいてなかったことは確かや」
「なんかおかしいな、日本の都市空襲を調べてる研究者も、広島・長崎の原爆の研究者もいたのに、なんで?」
「あとでわかったんやけど、都市空襲と原爆の研究は別々で行われていて、つながってることに目が向いてなかったようや。それを見つけたなんて、すごいと思わん?」
「偶然というのは恐ろしいなあ!」
「何やねんそのリアクション!自分らの仮説を証明する資料を国会図書館の憲政資料室で見つけたんや。それは1枚の地図と表やった。7月20日から8月14日に広島・長崎の原爆と模擬原爆49発のすべてが書かれていたんや」
「それで原爆投下作戦の全てはわかったわけやね」
「いや、ここからが、新しいスタートになったんや。アメリカが模擬原爆を落としたという場所と日時がほんとうかどうか、福島県から愛媛県までの地上の追跡が始まったんや」
「その話長くなりそうやから、今日はここまでにしとこか」
「ちょっと待て、これからがええとこや。でも時間がかかるから、講談社の人がつくってくれた地図を見といてな。・・・



講談社提供 パンプキン爆弾被弾地マップ

 ・・・それでな、全国回って思ったことは49発の模擬原爆がひきおこした悲劇は49あるということやねん。400人以上といわれている犠牲者のお名前も約300人わかってきたんや。原爆投下の訓練いや実験台にされてきたんや。
このことがわかってから、各地で聞き取り調査がまとめられたり、慰霊祭がおこなわれたり、慰霊碑が建立されたり、紙芝居やミュージカルで後世に伝えようという市民運動も広がってきたんや」
「ふーん、知らんかったわ」
「ただ、若い人にわかりやすく伝えることについては各地で苦労してきたんや。そこへ、令丈さんが今度子供向けのわかりやすい本を書いてくれはったわけや。『戦争』の文字を見ると素通りしてしまう子でも、『へーそんなことがあったんか、知らんかったな、お母ちゃんにも教えたろ』と入口のハードルは低くなってるんや。若い子たちにたくさん読んでもらえるとええねんけど」
「よっしゃわかった、知り合いにも子どもや孫のプレゼントに買ってもらうわ」
「たのむわ。ピースあいちも助かるし」
「何の事?」
「いや独り言」
「おとうさん、忘れてるでしょう?」
「何を?」
「こんないい本出してくれた令丈さんに」
「あっそうや、お礼状をまだ書いてなかった」

パンプキン!模擬原爆の夏』はピースあいちでも取り扱っています。



令丈ヒロ子講演会のお知らせ(講談社より)

 10月22日には広島子ども図書館にて、令丈さんの講演会も開かれます。
  http://www.library.city.hiroshima.jp/news/2011/09/15000730.html