『あとかたの街』を歩く      
ボランティア  大野  恵



加藤さんと堀田さん

『あとかたの街』

  

 4月7日、次世代交流チーム(ピースあいちの若手メンバーで結成されたチーム)で、街歩きを行いました。目的は、おざわゆきさん作の漫画『あとかたの街』に出てくるスポットを歩くというもの。『あとかたの街』は、おざわさんのお母さんが実際に体験した名古屋空襲を題材にした戦争漫画です。

 東京大空襲や広島、長崎の原爆は有名ですが、名古屋にも空襲があった事実は若い世代にはあまり知られておらず、名古屋空襲を題材にした作品も少ないと思います。昨年結成されたばかりの次世代交流チームでは、みんなで何か共通の作品を通して戦争や平和について話し合うことができればと考え、名古屋という身近な場所を舞台にしたこの漫画を掘り下げることにしました。

 
加藤さんと堀田さん

金子さんによる勉強会

  

 当日は朝からピースあいちに集合し、金子さん(ピースの運営委員、名古屋空襲にとても詳しい方)に、名古屋空襲について勉強会をしていただきました。米軍は綿密な計画によって攻撃する場所を決め、テストしたり成果が上がらなければやり直したりしていたようです。空襲は複数回に渡り、名古屋の街はすっかり焼き払われたのでした。

 地下鉄一社駅から栄へと移動し、まずは主人公のあいちゃんが勤労動員で働いていた鋲版工場があったと思われるあたりを歩きました。(漫画を読み、現在の地図と古地図を見ながら大体の場所を書き記したものを用意しました)あいちゃんが勤労動員で通った道、武平通は今ではいろんな飲食店が並び、背の高い建物ばかり。角にポツンと古いけれど味のあるおせんべい屋さんがあり、戦後すぐからやっているとのことでした。そこだけ時間に取り残されたような場所でした。

加藤さんと堀田さん

チームメンバーの木村さん作成による街歩きマップ

 昼食後は、あいちゃんの家があったと思われる新堀川付近へ。漫画を読むと川沿いに道があったようですが、現在は背の高いマンションがずらりと並んでいました。漫画4巻では1945年3月19日の空襲が詳細に描かれています。「鶉橋」「記念橋」など、漫画に出てきた橋に実際に立ち、ここに焼夷弾の雨が降り、炎から逃れるように川へ飛び込んだ人々がいたのか‥と想像してみました。

加藤さんと堀田さん加藤さんと堀田さん

写真左:焼夷弾の筒が身体に刺さり、洋三が亡くなった場面の鶉橋(うずらばし)。橋のたもとに昔の高欄が残されていた。「昭和十五年六月架設」とある。 写真右:記念橋

 記念橋から鶴舞公園へ向かいました。漫画の中で、炎に囲まれ、行き場を失くしたあいちゃんたちが、お父さんの言葉を信じて鶴舞公園まで駆け抜けるシーンの道です。この道は市電も走っていたようで、今でも道の中央に電停の跡がありました。

 鶴舞公園では「花まつり」が開催され、屋台や人々で大賑わい。平和な空の下、葉桜だけれど楽しそうにお酒を飲む人、人、人‥。73年前にここで焼け落ちる図書館を見たあいちゃん。あまりの差に本当に同じ場所で起こったことなのか、想像するのが難しかったです。

 図書館の裏に、大正から昭和初期にあった動物園(現在は東山動物園)の門柱が残っていました。動物園があったこと、門柱が残っていること。どちらも今まで知りませんでした。

加藤さんと堀田さん加藤さんと堀田さん加藤さんと堀田さん

写真左:東山動物園の前身「名古屋市立鶴舞公園付属動物園」通用門の支柱 写真中:「これかなあ?」漫画と見比べながら歩く。 写真右:高射砲があった八幡山古墳

 その後、ナゴヤドームへと電車で移動しました。漫画2巻で描かれた1944年12月13日の名古屋初の本格的な空襲の様子は、本当にゾクッとするものがあります。標的となったのは三菱重工業名古屋発動機製作所大幸工場。現在のナゴヤドームのあたりです。ドームの西チケット売り場横に掛けられたプレートには、この空襲で多くの犠牲者が出たこと、今同じ場所で野球やコンサートを楽しめることに感謝し、ご冥福をお祈りいたします、といったことが書かれていました。誰にも気がつかれないような本当に小さなプレートでした。

 最後に大幸工場跡の慰霊碑を見に行きました。ドーム近くの三菱重工業技術研修所内にあり、敷地の隅にひっそりと佇んでいました。木々に覆われ、足元にはポツ、ポツとタンポポが咲いていました。ここも何だか時間に置いていかれたような、寂しい気持ちになる場所でした。

加藤さんと堀田さん加藤さんと堀田さん加藤さんと堀田さん

写真左:ナゴヤドームの「平和への礎となられた人々を忘れません」のプレートの前で  写真中:三菱重工業名古屋発動機製作所跡の慰霊碑  写真右:ナゴヤドームに近い名古屋大学大幸医療センター 旧名古屋発動機製作所の本館が使われている。 

 途中、電車移動もありましたが、とにかく歩き回った一日でした。道中は地図を片手に協力し合い、時には普段なかなか話せない人と雑談をしながら歩いたり、笑ったり‥本当に平和だなぁと感じました。

 漫画の中に出てくる場所が、景色は変わっても今でもあるということ。73年前、ここで暮らしていた人々が、戦争によって命を落としたということ。街歩きをして、改めて今の平和を感じることができました。『あとかたの街』をきっかけに、知らなかった名古屋の歴史を知ることができ、充実した一日になりました。