「国際法からみる名古屋空襲(於ピースあいち)」に参加して      
矢野 暁



 2018年3月3日、ピースあいちで行われた愛知学院大学法学部国際法ゼミ(尋木ゼミ)の学生による研究発表「国際法からみる名古屋空襲」に参加しました。
 このイベントについては、昨年12月にピースあいちで開催された「戦災・空襲記録づくり第33回東海交流会」に参加した際に、愛知学院大学教員の尋木先生からお話をうかがい、知りました。名古屋空襲という歴史的できごとを法学部の学生が研究発表をするということで、大学で日本史学を専攻する私とは違った観点で空襲を考えるというテーマに興味を持ちました。

 
加藤さんと堀田さん

研究発表する愛知学院大学法学部国際法ゼミ(尋木ゼミ)の学生

  

 発表は2部構成で、第1部は国際法とはなにか、名古屋空襲に関係した国際法は何だったのかという説明からはじまり、それにもとづいて名古屋空襲の法的評価を見ていきました。軍需工場や鉄道など、空襲の対象を個別化し、それぞれに法をあてはめ合法か違法かを判断していきました。学生の検討のまとめとしては、市街地を目標とした空爆は違法であるが、工場や鉄道などの軍事目標に対する空襲は合法であるということでした。
 第2部は、映画「明日への遺言」(2008年公開)を題材とし、東海軍司令官岡田資中将の戦犯裁判を再検討するという内容でした。1945年5月14日の名古屋空襲の際に撃墜され捕虜となったB29搭乗員27名を、市街地に対する無差別爆撃であり、軍事目標主義に違反したとし、岡田は軍律会議を経ず略式命令で斬首しました。戦後、岡田の命令が捕虜条約違反であるとされ、B級戦犯として裁判にかけられ、岡田は絞首刑になりました。B29搭乗員はハーグ陸戦条約違反により捕虜ではなく戦犯であるという岡田の主張と、岡田の行為は捕虜条約違反だとする米の主張の法的な検討を試みていました。

 学生の発表が終わると質疑応答の時間がもうけられました。はじめにピースあいち館長の野間さんから質問がありました。
 まず国際法の解釈について、発表で日本の区別義務の違反や、混合目標などが紹介されたが、そもそもハーグ空戦規則の3項目にある「陸上部隊の作戦行動の直接地域でない都市、町村、住宅または建物の爆撃は、禁止する。目標が文民たる住民に対して無差別の爆撃を行うのでなければ爆撃することができない位置にある場合には、航空機は爆撃を控えなければならない。」という条文から、名古屋空襲は明らかに違法ではないのか、今回の個別的に法的評価をなしたなかで、合法と判断した部分に関してそれ以上の議論があったのかと質問がありました。
 学生からの回答としては、合法と結論付けたもののなかにも、違法ではないかと思われる部分があった、これから勉強を深めていきたいというものでした。

 法律の解釈はひと通りではなく、さまざまな解釈ができるものであり、今回はハーグ陸戦条規等にのっとって名古屋空襲が合法か違法かを検討したが、あくまでこの検討はスタートであり、この条文に記述があるからといって合法だと結論づけて研究を終わりにしてはならないと思います。私自身も今回参加してはじめて国際法にふれましたが、戦争をひとつの視点だけでなく、法もふくめた多角的な視点で勉強していかなければいけないと思いました。
 今回のイベントは2016年9月18日に亡くなった杉山千佐子さんを追悼する企画展の関連企画として開催されました。私がはじめて杉山千佐子さんのお話を聞いたのは3年前にピースあいちでおこなわれた東海交流会で、杉山さんが99歳の時でした。企画展は杉山さんの体験や活動についてだけでなく、防空法や受忍論など非常に考えさせられるすばらしい展示でした。またピースあいちを訪れ、学びを深めていきたいと感じました。