長野県阿智村からピースあいちを訪れて  
阿智村村民劇プロジェクト 大石 真紀子          

                                           
 
絵はがき

阿智村と満蒙開拓
 長野県・阿智村は名古屋から中央自動車道で約90分のところに位置する、昼神温泉を有する人口約6500人の農山村です。阿智村では村民が村の課題を考えあうことを主目的として、「社会教育研究集会」を毎年実施し、今年で51回目を迎えます。この集会において第47回から「平和」分科会を実施しており、今回その一環としてピースあいちにうかがいました。
 この集会で「平和」が取り上げられるようになった理由は、2013年、満蒙開拓平和記念館が阿智村に開館したことにあります。
 「満蒙開拓」とは太平洋戦争の際に満州へと移民を送り出した国策です。全国から27万人、長野県からは全国最多の3万3千人が満州へと渡りました。その中でも阿智村のある飯田下伊那地域から特に多くの人が渡りました。しかしその歴史はこれまであまり語られてきませんでした。記念館が開館したことをきっかけに「満蒙開拓の歴史をどう語り継ぐか」模索が始まったばかりです。

絵はがき

満蒙開拓を演劇に
 2018年1月20日、ピースあいちに23人でうかがいました。そのうちの10人が子どもで、ほとんどが「村民劇プロジェクト」に参加しています。
 2016年夏、阿智村地域おこし協力隊で、演劇を手がける二川舞香さんが「 “満蒙開拓”をテーマにした村民劇に取り組みたい」と提案し、阿智村・村民劇プロジェクトがスタートしました。1年半取り組む中で、3本のオリジナル演劇が上演できるまでになっています。出演者として保育園児~大人まで約30人が参加しています。これまでに村内2回、村外2回の公演を実施し、2018年1月の岡谷市公演では220人に来場いただきました。
  3本の作品は満蒙開拓にさまざまな角度からアプローチします。子どもたちによる朗読劇「たんぽぽの花」は長野県出身の脚本家、くるみざわしんさんの作品で、阿智村から満蒙開拓に行った人の証言をもとに、満州から阿智村へ引き揚げて来た少年を描いています。
 もう2本は、くるみざわさんから「脚本も自分たちで書いたらどうか。その方が自分のものになる。」との提案を受け、くるみざわさんに指導を受けながら若手の役場職員2人が書いたものです。そのうちの1つ「三つの責任」は戦後、満州に取り残され現地で妻になる少女を描きます。もう1つの作品「枝豆とハンコ」は、近未来の架空の役場を舞台に「エダマメ星へ移民する」国策が打ち出されたら、役場の広報係はどうする!? との内容で、コメディータッチの作品となっています。

大人も学ぶ 子どもも学ぶ
 出演する子どもたちは満蒙開拓に関する学習をしていますが、決して学習量は多くありませんし、自覚的に戦争に関心を持っている子はいないように思います。しかし演出を担当する二川さんが「彼らにとって“満蒙開拓”というテーマは難しすぎるかもしれません。しかし、今は理解できなくても関わることで少しでも身近に感じたり、興味を持つきっかけになってくれたらと思っています。」と語っているように、この村民劇での経験は戦争や平和、人権を考える上での「素地」になっていくだろうと思います。
 むしろ即効性があるのは大人が学ぶ時です。脚本「三つの責任」を描いたIさんは20代の女性です。特別、満蒙開拓に関心があったわけではないのですが、職場の先輩である私に誘われて(断りきれず?)脚本を書くことになりました。証言を読んだり、記念館の人と話したりすることを通して「満蒙開拓」への関心を深めました。書き上げた後も村民劇にスタッフとして関わり、学習会にも自分から参加するようになりました。
 時に大人を対象とした学びはおろそかになりがちですが、大人の学びを模索することは政治選択とも直結する重要な取り組みだと思います。
 今回、ピースあいちを訪れたことで、久々に満蒙開拓以外の歴史を学んだ気がしましたし、説明方法などでもたくさん発見がありました。時折、交流できるとお互い深みが増すのではないかと思います。

 

ピースあいちの感想
●演出 二川舞香さん
ピースあいちで“語り継ぎ”のお話をしていただきました。当事者の方たちが自らの体験を語る“語り手”と、当事者でない人たちが次へとつなげていく“語り継ぎ手”。“語り手”がどんどん少なくなっていく中、どこも同じように危機感を持っています。語り継いでいかなければならないけれど“語り継ぎ手”の方は、当事者でない自分が果たして語っていいのだろうかと迷ってしまいます。
“語り手”さんと“語り継ぎ手”さんの違いに、“語り手”さんの話は生々しいというのがありました。実際にあった出来事を正確に伝える事は大切なことです。けれど、“語り継ぎ”で大切なのは歴史の教科書のような話ではなく、その出来事を通して感じた本人の気持ちや思いなのではないかと思います。しかし、他人がその人の心を勝手に代弁していいのか。といった時に“演劇”の強み、「舞台の上では当事者になれる」というのが活きてきます。
 当事者の方と一緒に作品を作れたら、脚本は楽譜のようなものなので、出来事だけではなく、当事者の思いも込みで後世に継いでいくことができるのではないでしょうか。今後、語り継ぎとしての演劇の道も模索していきたいと思います。

●子どもたちの感想
・弟の火葬の順番を待っている男の子の写真が印象に残った。
・戦争の怖さを知った。爆弾が降ってくるのがこわい。
・象が殺されてかわいそうだった。

●大人の感想
・こどもたちへの説明に同行させてもらった。ガイドが、自分たちの生活に引き寄せて問いかけをしていたのでよかった。
・いっぱいいろんなものを吸収した。わかっていたつもりだったけど、東京大空襲は知っていたがほかの土地でもあったのだと思った。