いま、私が感じる“平和”、考える“平和”◆peace nine展   
運営委員  林 和子



ピースあいち夏期休館明けの9月5日からは、「peace nine展」が開催されました。名古屋芸術大学の学生などにより国民投票法が可決された2007年5月から毎年大学で開催してきた「peace nine展」は、今年で11回目を数えます。ピースあいちでは2012年から巡回展が始まりました。今年はリニューアルされた3階展示場に18組(19名)の出品者が集いました。展示ケースには、作品を創るにあたってそれぞれが参考にしたという資料や書籍・DVDも展示されています。
 9月9日には、出品者による「アーティストトーク」が行われました。作品を前に話された作者の想いは…

加藤さんと堀田さん加藤さんと堀田さん
 

「peace nine展」開催の想いー    peace nine実行委員会 長谷川 直美
平和」を見つめなおすことで、わたしたちはどのような未来を想い描くことができるのでしょうか。この心と手で自分たちが、平和のために何ができるのかを知りたいのです。美術の分野での表現者として、私たち個人が感じる、または考える「平和」について想いを発信致します。表現者たちからは今回も、様々な視点で「平和」について、真摯な言葉が紡ぎ出され、会場には多彩な作品が並びました。とりわけ、戦争を憂い、過去の戦争に駆り立てられていった人々の姿を見つめる空間であるここ、ピースあいちの「平和を求める熱く強い想い」に共感し、この空間で巡回展示を今年もまた開催させていただけますことを光栄に思い、心より感謝を申し上げます。憲法の理念と共に、ひとりひとりの平和への想いが未来の平和をつくりだしてゆくことを願ってー




西村 正幸さん 作品名「ある天使の思い出に #8(南スーダンに)」

加藤さんと堀田さん

左側・西村 正幸さんの作品/右側・中田 由絵+優太郎さんの作品「それはとてもきれいな木の下だった」

 

7年ほど前、サハラ砂漠地帯の国々が内戦のせいで、土地が荒れ飢餓状態が続き、関わっているNGO日本国際飢餓対策機構(ハンガーゼロアフリカ)を通じて募金を送ったりしていた。けれど結局それらの援助は無になり、ひどい内戦状態が続いたままでいた。そこでは現在も子どもたちが犠牲になり、国が荒廃している。この作品は内戦下の南スーダンの子どもたちに思いを寄せて描いた。天使さえもが何もできないと悲しんでいる姿だ。キリスト教聖者は「私を平和の武器にしてください」と祈り、聖書のことばに「平和をつくるひとは幸いです」というのがある。争い、傷つけあう、殺しあう愚かしさ、悲惨さをそのままに描かず表現し、弱者へのいたわりを込めた。




木下 千穂さん 作品名「結ぶ」

加藤さんと堀田さん

左側・吉岡 弘昭さんの作品「132番街の人と犬」/右側・木下 千穂さんの作品

 

今の自分が“戦争”に対してどうなのか、私は平和だけど世界では…。何もできないもどかしさを表現した。テーマに“伝える”“伝えられる”―作品はそれぞれのパーツが全てつながっています。人から影響を受け、私も誰かに影響を与えているかもしれない。中学の修学旅行で沖縄へ行った時、現地の人との交流があった。交流の最後に「あなた達に平和のバトンを渡しました」と言われ、その時はただ焦っただけだったけど、いま私は「渡されていたんだ」と思えるのです。




瀬古 清水さん 作品名「peace」

加藤さんと堀田さん

左側・瀬古 清水さんの作品/右側・高橋 奈保子さんの作品

 

一昨年まで、特別支援学校の教諭として勤務していました。毎日、生徒たちからたくさんの事を教えてもらいました。彼らは、個性豊かで思い思いに動いてしまうので、新年度が始まった4月の教室は、まるで戦争のようでした。しかし、一人ひとりの行動をよく見ると、その行動には、きちんと意味がありました。それを受け止め理解し、環境や対応を適切なものに変えていくことで、生徒たちは、集団行動が取れるようになり、クラスは、平和になっていきました。
これは、特別支援学校の生徒たちだからなのでしょうか?いえ、そうではなく、私たちも同じだと思います。
世界には、いろいろな文化や言葉、宗教、習慣があります。理解できない行動を取る人たちがいます。違う考えを持った人たちの行動の意味をまず想像し、対応していくことが大切だと思います。暴力で対応しても、お互いに暴力のモンスターになってしまい、戦争が生まれるのだと思います。今回の作品は、いろんな個性、考え、人種の人たちを36枚の羊に表現し、繋ぎ合せました。世界中人たちが理解し合い、ひとつになれるように願いながら制作しました。
日本は、5兆円を超える軍事費が税金から使われていると聞きました。こうして、平和を語っていますが、納税者の自分は、間接的に戦争に加担していると思うと矛盾を感じます。
制作を通して、平和について考え続けていきたいと思います。




高橋 奈保子さん 作品名「花」

身体がコントロールできない、手がこわばってー難病で入退院をくりかえし、“生きるって”“死ぬってどういうことなんだろう”と考え続けていた。病院で、飾ってあるアートを見る。作って見せる側から見せてもらう側になっていた。アートの世界に戻ってみたいと2015年に復学した。ドローイングという自分の中のメモ帳に、右手で描けなかったら左手で、左手で描けなかったら足で…“今の一生懸命生きたい”を表現してきた。今年新しい治療法を始めた。この日は私の手にようやく人間らしい感覚が戻ってきた日。嬉しくて何枚も何枚も手だけを描いた。私は沖縄の出身。沖縄には“花”にまつわる歌がたくさんある。「自分の花を咲かせて」と小さい頃から言われてきた。まだ、モノクロが多く、線もしっかりかけていないけど、これが今私の「花」です。




伊藤 みのりさん 作品名「薫風」

加藤さんと堀田さん

左側・伊藤 みのりさんの作品/右側・出口 俊一さんの作品「リトルフラワー」

 

私たちの世代は戦争というものがすごく遠い昔話のように感じていると思います。しかし、他の国では、現在もおきていることで、縁遠いものではないと思います。一歩間違えたり、なんとなくで大切なことが大変なことになってしまうかもしれないと思い、足跡をモチーフに作品をつくりました。作品には、6つの足跡があります。前向きに未来へ向かう4歩に続いて、2つだけ逆向きで立ち止まっています。これは、平和な未来のためには「過去」「歴史」を振り返らなければ進めない、という気持ちを込めました。見えにくいことをこれから一つずつ見えるようにしていく努力をという思いも…。




河合 里奈さん 作品名「karma」

加藤さんと堀田さん

左側・河合 里奈さんの作品/右側・川島 里恵さんの作品

 

“平和ってなんだろう”“不平等ってどこからきているのだろう”答えもでず、4年生なのに進路も決まらず…。そんなときインドの友人が「ヒンズー教には、死んだ魚は流動に流されるという言葉がある。あなたはまだ死んでいない。流がされるのではなく逆らわなくては」と。そして、この作品を描いている日に雷が落ちた。私は表現者として、作品を通じて社会に貢献できる作品をつくりつづけようと思っている。




川島 里恵さん 作品名「Invisible Part」

マジックで使われる消える貯金箱をイメージしています。私が感じる幸せや平和は、見えないところで誰かが支えてくれてなりたっています。世界には暗い部分と明るい部分があり、今自分は幸せに生きているけれど、目には見えない暗い過去や他の人の支えがあってこそ。箱から宙に浮いたような自分の存在の頼りなさ。マジックの近づけば近づくほど見えなくなるという性質を、誰かの支えでなりたっているのが当たり前な私の幸せと関連付けて作りました。




長谷川 直美さん 作品名「keep out」

加藤さんと堀田さん

左側・長谷川 直美さんの作品/右側・西村 日和さんの作品「深い海は、いつか深い森になる」

 

新聞は琉球新報。当時の沖縄を伝える新聞を使うことで多くのことが語れると思う、また現在に通じる沖縄を語るには最適な媒体だと思います。
2005年に観光で始めて沖縄行ったとき、「ここで人が亡くなった」-大地が記憶しているのではないかという不思議な感覚を感じました。「生と死」が混在するウタキ(御嶽)の神聖さと対極にある米軍基地。このフェンスに掲示されている立ち入り禁止の看板を表すことで、人間が武力によって「立ち入り禁止」にしていること自体がおかしなことではないか、というメッセージになればとねがっています。「米軍に来ないでほしい」と思う“立ち入り禁止”と、ガマに隠れた住民を追い出した日本軍兵士の言った“立ち入り禁止”と、様々な立ち入り禁止を表すことで、沖縄が日本とアメリカによって背負わされている矛盾を表現しました。色彩の選択は、「平和」を表すレインボーフラッグからヒントを得、平和を求めて活動する全ての(全世界の)人々と共に、武力に依らない世界を求めていくべきだという気持ちで7色を使用。




柴田 智江さん 作品名「ヒトについて」

加藤さんと堀田さん

左側・柴田 智江さんの作品/中・大沢 理沙さんの作品/右側・平塚 麻未さんの作品

 

昨年イギリスに留学した。たくさんの人に助けられ無事3ヶ月過ごすことができた。しかし、心優しい人達と出逢う一方で、人種の壁を感じることも多かった。誰かを否定しないと自分が保てないというおおきな負の連鎖を感じ、価値観を根本のところから見直さないと本当の意味で幸せになれないと強く感じさせられました。今回は価値観をテーマに「ヒトについて」と「連鎖から」を制作。他人と比べるのではなく、自分の中で幸せを生み出すことの大切さを表現した。




大沢 理沙さん 作品名「ひとりごと」

絵とか文は、書く人が作りだしていると思っていたが、人は相手の言葉などやりとりの中で作り出していくものだと思えてきた。聞いてほしいことを聞いてくれる、誰かのことを考えていけるー相手の声に耳をすませたり、自分の声も聞けるようにとーそんな中で作品が生まれてくるのだと。この作品―版画の色入れは、ローラーを使わず指だけで色を入れました。自分の気持ちに素直に。




平塚 麻未さん 作品名「シニブクロウ」

平和や戦争というものを、peacenineというものをどう考えて作品にしたらいいかとても悩んでいました。その時、原子力爆弾を開発、実験、投下の実際の戦闘機に乗り、見届けた方々が原爆ドームを見学し、被爆者の実際の声を会いに行って聞いたということを知りました。その方々が最後に言った言葉がとても腹立たしく憤りや疑問に思いました。“それでも投下したことに後悔はない”。まだ世界では半分以上の人が、原爆を投下して良かった。そのおかげで戦争が終わったと感じていると記されています。日本の当時の状況から見ても負けることはわかっていたわけで、2発も投下というのは明らかに実験としか思えない。チェルノブイリや福島の原子力発電などで核の恐ろしさを言われているのに、原爆に感謝しているという状況がとても気持ち悪く、想像力に欠けすぎるのではないか。問題と問題、人間と人間、一つひとつ考えていかなくては…。



加藤さんと堀田さん

左側・中村 ふく子さんの作品「明日のために」/中・河合 昭さんの作品「スーパームーンを遮る機影」/右側・光内 惟奈さんの作品「濾過」