◆常設展から◆カントが語る「永遠平和のために」  
ボランテイア 林  收



 ピースあいち1階の常設第4展示「現代の戦争と平和」がリニューアルされてから5年近くたちました。

絵はがき

イマニュエル・カント

 展示全体の冒頭には、「展示メッセージ」として「展示は、戦争を計画・遂行したり、戦争で利益を得る人たちの視点ではなく、戦争で傷つき苦しむ人たちの視点に立っています。……」と案内しています。
 つづいてイマニュエル・カント(1724~1804)の肖像画と1795年に著作した有名な「永遠平和のために」から引用した一文があります。すなわち、「常備軍は時と共に全廃しなければならない」「いかなる国家もほかの国の体制や統治に暴力をもって干渉してはならない」というものです。

絵はがき

[左から] エレン・サーリーフ(リベリア大統領)
リーマ・ボウイ(リベリアの平和活動家)
タワックル・カルマン(イエメンの女性民主化活動家)

 展示は壁面全体が年表形式をとり、1910年代から2011年まで時系列表示で、上の段は「平和の流れを見てみよう」、下の段は「戦争の流れを見てみよう」と区別し、画像とキャプションを並べる表示となっています。
 「平和の流れを見てみよう」では、ロシア革命(1917)、 国際連盟の設立(1920) から始まって中近東・アフリカの国々の民主化運動に尽くした3人の女性(左図)に2011年度ノーベル賞が授与されたことまでが取り上げられています。このおおよそ100年の間には、パリ不戦条約(1928) 、国際連合の成立(1945) 、日本国憲法の誕生(1946) 、ベルリンの壁崩壊(1989) 、包括的核実験禁止条約(CTBT)の採択(1996) などが展示されています。

絵はがき

1989.11.10市民の手でベルリンの壁取崩し

 一方「戦争の流れを見てみよう」では、第一次世界大戦の概要と100万人の死者行方不明者を出したスターリングラードの独ソ攻防戦を記念するママエフ墳丘の記念像に始まり、第二次世界大戦ほか数々の戦争記録やビキニ環礁水爆実験、チェルノブイリ原発事故に加え2011年3月11日東日本大震災による東京電力第一原子力発電所1~4号機の事故で終わっています。

絵はがき

スターリングラード攻防戦を
記念するママエフ墳丘の
母なる祖国像

 2012年4月、当時野党であった自民党は、憲法第9条の改正による国防軍の設置などを盛り込んだ日本国憲法改正草案を決定し、同年10月発表したこの改正草案に関する「Q&A」には「独立国家が、その独立と平和を保ち、国民の安全を確保するため軍隊を保有することは、現代の世界では常識です。」と明言しています。このリニューアル展示で取り上げたカントの提言に反する方向を打ち出したというべきものと考えます。
 この第4展示の企画にあたって表明している、『平和とは「戦争がないこと」だけでなく、飢餓や貧困、差別や核の恐怖もなく、「人々が普通に暮せること」であるとする新しい平和の考え方も生まれています。21世紀は、国際的な市民の連帯と共生によって平和を創り出す時代です。』という訴えを、2世紀以上も前に哲学者カントが指摘した前述の名言とともに、今改めて心に刻み込む必要性を強く感じています。