博物館実習で学生との交流   
ピースあいち学芸員 岡村 裕成



 ピースあいちは2010年に博物館相当施設としての認定を得て以来、大学から要請があった場合に「博物館実習」を引き受けています。例年実習に来る学生は1名から2名ですが、今年は中部大学・中京大学・愛知学院大学の3大学から4名の学生が来ました。実施日時は7月から8月のうち9日間、内容としてはピースあいちのスタッフによる講義や展示準備、フィールドワークを行いました。

絵はがき

 展示準備では、この夏の企画展「私の八月十五日展 マンガ家・戦争体験者―あの日の記憶」、8月に開催された「あいち・平和のための戦争展」に携わってもらいました。学生にとって初めてづくしだったようですが、非常にいい経験になったようです。
 「一から展示を作る大変さを学べた」、「展示資料を計画通りに美しく配置することが想像以上に困難であった事が最も印象に残りました」といった感想を述べていました。

 ピースあいちのスタッフによる講義は、ピースあいちならではの多角的かつ個性的なものでした。内容は、海外の博物館展示について、デジタルデータの活用、学芸員の役割、ピースあいちでの資料整理・登録の方法など。自身の研究や実習への取り組みにつながるとあって、どの講義も学生は真剣に取り組んでくれました。
 併せて同時期にピースあいちで開催していた戦争体験者の語りの時間にも参加した事で、平和の尊さや重要さ、書籍だけではわからない戦争の多様な姿を学び吸収できたようです。

 フィールドワークは私が担当し、名古屋城周辺と平和公園の戦跡めぐりを実施しました。名古屋城周辺では名古屋城内外にある「戦争の記憶」の取り扱い方について、実際の慰霊碑などを見学して比較してもらい、平和公園ではピースあいちと被爆地のつながりから平和を伝える場としての平和公園について考えてもらいました。
 実習生は、名古屋市内に平和や戦争に関する戦跡や記憶を伝えるモノが点在していることにとても驚いたようで、「他の県ではどうなっているのか」「外に出て自分の足で調べる事が大切」と、さらなる関心を引き出せ、意義あるフィールドワークにできました。

 最終日には「企画展の提案」。学生それぞれの興味関心から展示の提案がされました。戦時中のアニメを題材にしたものや特攻隊の手紙を取り上げたもの、ピースあいちではなかなか注目していない高度経済成長期をテーマにしたもの、戦時中の電車についてなど、荒削りながら今後のピースあいちでの企画展に活用できるのではないかという提案がされました。この日は、ピースあいちのスタッフも参加、学生に意見や助言をしてもらいました。

 

 「博物館実習」の受け入れは毎年のことになりつつありますが、若い世代に実習先としてピースあいちを選んでもらえる事に感謝をしつつ、これからも若い世代から刺激と絆を得られるように続けていけたらと思っています。

◆実習総括◆

中京大学・蓮尾貴大さん
 全9日間の実習を通して、私は学芸員の卵として大きく成長することができました。
 初日の「私の八月十五日展」の展示準備の実習に始まり、戦争資料の収集方法についての講義、館内の仕事の実習、サブカルチャーと「戦争と平和」の関係についての講義、「あいち・平和のための戦争展」の展示準備の実習、他館協力による企画展の準備についての講義、寄贈された資料の整理・登録の実習、名古屋市内の戦跡のフィールドワーク、「戦争の記憶」の展示方法についての講義、教育現場が学芸員に求めるものについての講義、名古屋市博物館の見学、そして最終日の実習生による「企画展」発表と、たいへん充実した実習を受けさせていただき、学芸員として必要な多くのことを学びました。
 中でも「戦争展」の展示準備は、多くの団体さまが集まる大会場での展示準備ということで、特に印象に残りました。また、「パンプキン爆弾」や、戦争体験者の方による語り、日中戦争下における「日本人町」といった戦時下のことを学ばせていただく機会もあり、大学で近現代史を専攻する者として、とても勉強になりました。

愛知学院大学・山本達哉さん
 博物館実習を終えて一番の感想は学芸員の仕事の大変さです。大学の講義で資料の扱い方や展示・保存の方法などは学びましたが、実際にやってみると難しく、企画展一つを考えるにも苦労しました。企画展の設営に参加した際は、詳細な展示図がないとスムーズに作業は進みませんし、仲間と協力しなければできない作業がほとんどでした。設置だけではなく撤去作業もあることを考えると、とても労力のいる作業であると感じました。
 展示をするにあたっては資料が必ず必要となってきますが、その資料の展示までの流れはいくつもの段階を踏んでおり学芸員の仕事のたいへんさを知る一つになりました。資料にはいろいろな材質のものがあり、扱いには慎重さが求められます。温湿度の管理は人間と機械が見ること、虫には薫蒸、カビには適宜クリーニングをすること、消火は水ではなくハロンガスを使用することなど様々なことを学びました。それから、大事なことは資料の登録と整理です。パソコン上にデータとして残しておけば後から検索をするときに便利ですし、資料の整理もしやすくなります。登録の際は機械ではなく人の手で写真から情報カードデータ入力までするので、学芸員の大事な仕事だと感じました。
 確かに学芸員の仕事は多く、たいへんではありますが、その分やりがいもあると思いました。次からは学芸員として資料に触れ、展示に携わっていけるように努力したいと思いました。

中部大学・宮廻愛さん
 今回の実習では、資料の見方、調べ方、奥への掘り下げ方、資料の扱い方、博物館の歴史など、現在の問題まで多くの事を学びました。1つの資料を見せるにも、どのような見せ方をすべきなのか、お客様に興味持ってもらうにはどうすべきなのかなど、もっと多くの事を学びたいと思いました。そしてもっと多くの事を自らで学んだり、指導していただいて、これからのボランティア活動にも役立てていきたいと思います。(宮廻さんは、ピースあいちのボランティアでもあります。)
 1つの企画展を作るのに場所、お金のこと、実際運営するにあたってなど、多くの人が関わって作られていることを知りました。お客様の目線になるのはとても重要な事だと知りました。これからもしまた企画展を計画できるなら、お客様にみせられるパネルなど、内容などもっと深く考えていきたいと思います。また1つ1つ資料を探すのも、資料の持ち主はどういう方だったのか、深くまで掘り下げた上で資料に触れていきたいと思いました。

中部大学・田中雄人さん
 初日の実習でまず感じたのが、ピースあいちはこれまで勉強してきた博物館とは違うということでした。宮原さんが全体の指揮をとりつつボランティアの方々がそれぞれ動き、気が付けば作業はほとんど終わっていました。ボランティアの方々がそれぞれ展示に関する知識や経験を持っているということで、ほぼボランティアだけで運営できているという理由の一部を実際に見ることができました。
 私が実習を通して重要だと感じたのが、意思疎通、相手とのコミュニケーションでした。今回の実習ではピースあいちの方々、実習生のほかに戦争展の参加団体の方々など多くの人々が協力して作業を行ないました。そのなかでパネルの取り扱いや展示の微調整、作業の進行方法や資料の取り扱いなど、相手に自分の意思を伝えることの重要性を改めて感じました。初日に宮原さんに指導していただきましたが、相手に細かな感覚を伝えるうえでの的確な表現や距離感覚、図面の見方など、しっかりと自分のものにしていきたいと思います。
 もう1つは、広い視野を持つことを意識して、ということです。倉橋先生の、一方にかたよりがちな難しい問題の本質を見抜く力、企画展発表の際の自分、他の実習生への指摘、アドバイスを聞いて、自分に足りない部分を知るとともに、他者の目線の必要性を感じました。