「特攻隊員 上原良司が残したもの」 講演会に参加して            安田 千恵子



 上原良司は『「きけ わだつみの声』の巻頭に紹介された「所感」の作者だと聞いて、もう何年か前に読んだ『きけ わだつみの声』を思い出しました。
 「明日は、自由主義者が一人この世から去って行きます。」の一文を読んだときに、作者のやるせない心情が伝わってきたことを思い出しました。
 今回は、その作者上原良司一人にしぼって、彼の生き様を見つめ直すことから、戦争の残忍さを改めて考えるという講演でした。

語り手

 上原良司の22歳という年齢は、私の長男の年齢と同じです。この年齢の若者であるなら、当然持っているであろう人生への希望や夢が、自分の意思とは全く無関係に壊されていく、それは本当にむごいことであると感じました。しかし、彼が、自分の信念を曲げることなく、軍国主義の日本にあって、あくまでも自分を自由主義者と呼んで死んでいったことに、彼の遺書に書かれた「心中満足で一杯です。」の一文があるのだと思います。
 講師の先生もおっしゃっていましたが、彼は英霊として死んでいったのではなく、一人の戦死者として死んでいったと。それは、彼が出撃の前に、「靖国には行かない。天国に行く。」と言った言葉にもあらわれていると思います。

 それにしても、この上原良司と同じように特攻で死んでいった若者の一人ひとりに人生があり、家族があり、友人があると考えるにつけ、戦争はなんとむごく恐ろしいものだと感じずにはいられません。
 また、この企画展の入り口に書かれていたように、特攻隊員によって撃沈させられた艦船の上にいたアメリカ人の一人ひとりにも同じように家族があり、友人がいたことを思うにつけ、人々が互いに殺し合わなくてはならなかった当時の政治に深い憤りを感じました。

 さて、振り返って、現代はどうでしょう。イスラエルの侵攻によって、パレスチナ自治区のガザでは、1,500人以上の人々の命が奪われ、この一瞬一瞬にも人々が砲撃の前に倒れています。そして、私はそれをテレビや新聞でただみていることしかできません。
 我が国においても、世界の平和よりも自国の幸福追求権にのみ重きを置いて、集団的自衛権を行使するという武力行使に道を開いてしました。

 集団的自衛権の行使は、日本国憲法の前文の末尾に書かれている、
『われらは、いずれの国家も自国のことのみに専念して、他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげて、この崇高な理想と目的を達成することを誓う。』
という、憲法の前文に、全くもって違憲であるのではないでしょうか。

 

 社会科の教師として、生徒に憲法を正しく教えていくことが、わたしにできる戦争を止めることのできる一歩であると信じています。